蟄居と遠隔(2):無理すんな

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    想像図

     

     別の業者からの仕事も自宅撮影になった。こちらは授業スタイルにこだわらないので、PCで資料を示しながら解説するのを動画キャプチャで撮ることにした。映画「search/サーチ」と同じような手法である。ちゃぶ台講義と違って、舞台設営もカメラや照明のセッティグも要らないので楽ちんだ。


     デスクトップPCはマイクを搭載していないので、ガンマイクを接続してミニ三脚で固定した。しかしどうも音質がくぐもっている。古くなったのか、PCとの相性のせいか。ICレコーダーで録音してみると、マイクの音声と比べて一長一短である。となれば、両方載せるとしよう。

     Movie Studioは、映像トラックとは別に、もう一個音声トラックがある。BGM用だろうが、ここにレコーダーの音声を載せる。同期を取るには、録音の頭でパン!と手を叩くとよい。針のように鋭い波形がたつので、これを目印にすれば手動でも簡単に合わせられる。今の高額編集ソフトだと勝手にやってくれるらしいが、自主映画を撮ってたころのファイナルカットプロにはその機能がなく、あのとき学習した方法である。ひとりぼっちで自分で自分に拍手でキューを出しているのは実に滑稽だ。


     さて巷のうわさやネットの記事等を見ると、オンライン授業は学生にはすこぶる不評らしい。そりゃそうだろう。動画を通じて見る人々(役者にしろタレントにしろアナウンサーにしろ)の話し方が脳内では標準になっているところに、役者でもアナウンサーでもない教授や講師が話すのだから集中力は続きにくい。ライブ配信型式ならともかく、録画配信の動画ともなると強制力も働きにくいから、退屈して一旦停止しそのまま二度寝、となっても責められまい。


     なので多少なりとも工夫をしようという気になる。まず画面に変化をつける工夫。話すことをいちいち板書するようなイメージで、喋るのに合わせて説明を追加表示したり赤線を引いたりする。アニメーションのセル画を一枚一枚描くのと構造的には同じで面倒くさい。

     

     もう一つはNHKの語学講座を聞いていて思ったのだが、要所要所でのジングルである。1〜2小節くらいの短い旋律でメリハリをつけているのを結構多用している。では作ってみよう。作曲ソフトはバンド活動でたまに使ってきた。作曲の基本はパクリというのが結成時からの信条であるから、既存のジングルを聞いてパターンをいくつか確認し、なんとなくイメージした(模倣した)フレーズを口ずさみながら手探りで入力する。

     

     バンドだとギター、ベース、ドラム、オルガン、ピアノ、この5つしか使ったことがないが、ジングルだともっとほかの音楽の時間に習うような楽器にまで幅が広がる。これはこれで楽しい。「チャラッチャッチャラ〜〜」などと口ずさみながら拍を想像して打ち込むも、てんでめちゃくちゃなリズムになるのは毎度のこと。音感もなければリズム感もない。手探りで拍を伸ばしたり縮めたり、1音上げたり下げたり。よし出来た。うんめちゃダサい。

     

     ふと我に返る。俺は何をしているんだ。友人の警句を無視しておる。なぜ「無理はしない」とわざわざ念じなければならないかといえば、学生のために、などと考え出すと際限がなくなるからで、それで報酬が上積みされるならともかく、そんなはずもないので自分をすり減らして他の業務に支障が出ることにつながる。だから無理するなという話になる。教える仕事をやってるやつは基本的におせっかいなんだよ。

     

     まあとにかくこうしてちょっとでもメリハリをつける装置を整え、いざ自分がしゃべっているキャプチャ動画を見る、というか聞くと、自覚以上に「えー」と「あのー」が多い。間延びする。耳障りでもある。よし、切ろう。「えー」の前後で切ってつなぐ。「あのー」の前後で切ってつなぐ。

     

     これを繰り返しているうち、段々タイムラインを流れていく波形を見ているだけで、間もなく「えー」が来るな、とわかるようになってきてしまった。およそ汎用性のなさそうな眼力が鍛えられている。「えー」の波形は絵文字の肉と似ている。たまに言葉に窮して「え〜〜〜〜〜」と長くなると、店頭に並べる前のバームクーヘンのようになる。「あのー」はキノコを横にしたような形になっている。これらをまるでポリープのようにチョキチョキと除去していくと、多少なりとも話しぶりがスムーズになる。

     努力に対して結果の向上が即みられると、これはもう止め時を見失った大掃除のようにムキになってしまう。しかし我ながら恐ろしい集中力だ。1つのことにここまで連続して集中できる作業は他に思い当たらない。本業にしてたら死んでたな。さして面白くもないのになぜ?

     

     こうして紙芝居型講義ビデオを仕上げていったわけだが、改めて、ラジオパーソナリティの凄さを知った。我ながら素人臭いもっさりした喋り方だ。俺こんな声じゃない!いやそういう話ではない。


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