スピード感とリーダーシップ

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     何度目かと我ながら呆れつつもやはり「JINー仁ー」の再放送を見てしまった。総集編的にちょこちょこカットしているから、「あのシーンがない」と寂しく思うだけでなく、登場人物がワープしていたり、回想シーンに齟齬が生じたりしていている。まあそれでも破綻なくつなげていると思うが、こういう濃いドラマはちょっとしたことで見ている側の緊張感を削ぐものなんだなと思った。枠はようけ空いてしまっているだろうから、フルでやってくれりゃいいのに。

     

     序盤のコロリ騒動がコロナとかぶってタイムリーになるのは見る前からわかっていたが、主人公・仁が実施するコレラ治療について、幕府がさっさと予算をつけ、今でいうところの国立大学病院で大々的にこの治療法を実施する辺り、2020年日本よりはるかに優秀やんけという悲しい展開であった。まあこれはフィクションであるが、「幕府が頑迷固陋で予算をつけない」という展開だと、ちょっと悪く描きすぎじゃね?とは思ったかもね。

     

     本作の元作たるマンガの執筆の出発点となったのは、作者が江戸の女郎たちの悲惨な実態に心を痛め、彼女たちが救われる話を描きたいと思ったからだという。なのでドラマでもそこは厚く描かれ、例えば重要人物である花魁・野風の半生なんかが綴られる。それを見ていると、「コロナで仕事を失った美女が風俗に流れてくるのが楽しみ」旨の発言をした岡村隆史はこのドラマを見てなかったのか、どっちにしたって改めて見たら?と思った。苦しい擁護をしている人含め。どれだけ残酷な発言なのかがよくわかるというものだ。


     その女郎たちに、健診を試みようとする仁たちが猛烈に反発されるシーンも期せずしてタイムリー。異常が見つかれば職を失うだけだから、何の補償もなしに健診を受けるはずもない。彼女たちがようやく受けるようになるのは、梅毒の治療薬の製造に仁が成功してからであるが、そのシーンはカットされていた。この場合は補償ならぬ(治る)保証であるが、それがあればそりゃ健診の受診という狎気靴す堝悪瓩鮗茲襪茲Δ砲覆襦


     その仁は、乳がんの疑いが見られる野風に対し、未来が変わってしまうからとうじうじ手術を躊躇することになり、そのせいで咲が微妙に気の進まない縁談を受け&結納の日に逐電する羽目になるのだが、「治療しないのが最善手」と正当化を試みる仁がしゃあしゃあと言い放つ狎掬な理由瓩蓮▲疋薀泙了訥絢圓砲垢譴仗里偽りを言っているのを知っているから嘘っぽく聞こえるかもしれないが、これ自体だけを見ればそれなりに説得力があると思う。なるほど(自称)医者たちがテレビ等で開陳している、それらしい残酷な理屈もこれと一緒か。

     本作のおもしろシーンの1つが第一話である。タイムスリップしたことに困惑したままの仁が、瀕死の怪我人を目の前にするとその治療しか考えなくなる。当然「あんた誰?」などと周囲が不審がるのを「今は一刻を争う!」とどなりつけて手術を敢行する。この、人の命がかかった局面では治療しか考えなくなる愚直な態度が、ブルドーザーのように、タイムスリップものにつきものの序盤のあれやこれやの面倒な困惑を吹き飛ばしていく様は大変に心地いい。

     医者というのは基本的にはこういうスタンスだと思う。仕事が忙しくて…などと診察をサボるとめっちゃ怒られるのも、命以上に大事なものなんかないという価値観が根底にあるからだろう。だもんでそうではない理屈を持ち出す医者は眉につばをつけるのが生活の知恵ではないのかしらね。


     さて仁は、150年ほどの医療史の蓄積のアドバンテージでもって江戸時代でゴッドハンドの活躍を見せるわけだが、醤油屋の主人が評すように、周囲がそれについてくるのは自分の専門分野に真摯だからである。あとの面倒くさい調整事は緒方洪庵なり勝、坂本あたりがやっている。政治というかこの場合は行政か、とにかくそういうもんだろ。

     ここ数年来気に食わない言葉として、「スピード感」と「リーダーシップ」があって、前者は「感」をつける必然性がさっぱりわからん広告屋言葉みたいなのがひっかかり、後者はそもそもそんなものを求めるところに不幸があるんと違うか、ってことで、どっちもアホの言葉だと感じている。仁は「スピード感がある」んじゃなくて、単に必死に急いでるだけだし、大事なのはそれだろうよ。

     リーダーシップなんか結果を評する言葉に過ぎん。仁(や周囲の人々)の奮闘ぶりを見てそんなことを思った。それを手段だと思って最初に求めようとするから、政権支持から不支持に回ったのに維新を支持するという同じ轍もいいところのおかしなことになるんだ。韓国、台湾、ドイツ、カリフォルニア州、愛知県などなど、結果を出している元首や首長は真面目で必死なだけだ。雨合羽のどこが真面目なんだ。


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