【やっつけ映画評】13th 憲法修正第13条

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     家にいる時間が長くなる中、いよいよ動画配信の契約をするかと思っていたが、なんだかんだでいまだにしていない。NetflixとAmazonには気になるドキュメンタリーがいくつかあって、儲けている企業の面目躍如な一面がある。本作もそのうちの1つで、4年前の作品だがアメリカでの状勢を受けて注目が集まっている。そのせいか無料公開されていた。無料公開が社会貢献の1つなら、見るのもまた貢献の1つだろうて。


     何せ、予想はしていたが、アメリカの動きに対する日本の報道の語り口の幼稚さといったら。こんなんだから映画を見るだけでも大層立派な行為になってしまう。「デモ擁護=左派」という冷戦構造みたいな頭で逆張りをする連中の惨状はいうまでもない。声を上げることに苦言を呈したいならジャッキー・ロビンソンくらい引き合いに出せ。どうせ知らんやろうから「42」見ろ。


     そしてデモ側に理解を示す番組や記事にもだめだこりゃが目立つ。大卒の選抜者が束になって町山智浩1人に勝てていないんだもんなあ。極めつけがNHK。どうせ「トランプ寄りに作るのが無難だろう」という党派性に基づく判断だったのだろうが、それで当のアメリカから怒られてるから世話はない。保身のためにひたすら媚びへつらってるのに、逆に怒りを買って当の御主人様に殺される北斗の拳のウサを思い出した。我らが公共放送がウサ!国会で証人喚問するレベルだろこれ。

     だもんで、無料公開のドキュメンタリーくらい見ろって話なんである。

     

     タイトルにある合衆国憲法修正第13条の成立過程はスピルバーグの「リンカーン」に詳しい。リンカンの代名詞でもある奴隷解放宣言を恒久化するため憲法修正に奮闘する姿が描かれている。リンカンの主張には正義があるが、修正案を通過させるための強引な手法にはアウトの薫りが漂うところが面白い映画である。

     

     あの作品では今一つ触れられていなかったこの条文の犒雖瓩ら本作は出発している。
     奴隷が解放されれば、「それでも夜は明ける」のラストで「窃盗だ!訴えるぞこの野郎!」と、奴隷を1人失っただけでぎゃあぎゃあわめいていたあの陰湿な農場主なんかは完全なるビジネスモデル崩壊の憂き目に遭う。というわけで条文の穴である「except as a punishment for crime(犯罪の刑罰を除き)」に目をつけ、黒人を次々しょっぴいて犯罪者にすることで、奴隷扱いを継続することになる。
     こうして黒人=犯罪者という図式が作られ、奴隷解放の大義は霞むことになる。「有色人専用」による隔離が常態化してもいく。「それでも夜は〜」のソロモンが、序盤で白人の興行主たちと高そうなレストランで会食するシーンがあるが、その120年後を舞台にした「グリーンブック」では、そういう店に黒人のドクター・シャーリーは入店できないから、むしろ退行しとるがなという話である。


     ここまでが映画の序盤だ。その後、特にレーガン政権以降、この「黒人=犯罪者」の図式が票の獲得のために利用され受刑者が激増していく。この刑事司法部分のいびつな肥大化を本作は主題としている。
     アメリカは建国段階から記録が残る稀有な国とよく言われるが、同じく黒人差別問題も起点がどこなのかがはっきりしているんだなと、ここまでの歴史ダイジェストを見せられて思った。アメリカの場合は建国から現在に至るまで同じ体制が続いているから連続性が明確というのもある。

     とにかく黒人に限らず、現在の差別問題も必ず歴史とセットになっているから、リビジョニストは罪深い。「日本人はどうせ差別を理解できないから、せめて歴史をきちんと教えろ」という指摘を見たことがあるが、近代史をちゃんと押さえておかないと、こういう議論そのものが成立しなくなるのは間違いない。
     ちょうど軍艦島を巡って徴用工の差別は聞いたことがないという島民の証言を掲示して、というニュースがあった。そりゃ差別なんか「聞いたことない」に決まってる。「それでも夜は明ける」の農園主もどうせ「差別なんかなかった」って言うよ。自覚がないし興味もないんだから。なのである意味歴史の実相を伝えてるんだよこれは。

     問題はそれを学術的にどう評価するかであり、この記事みたいに「韓国が問題視する可能性もある」じゃなくてお前が問題視しろという話である。センター長が「政治的意図はなかった」と言う(この場合、正確には「党派的」だろうが)のと同様、「韓国が問題視」も党派的。ろくに意味を持たない。俺はいいけど部長が何て言うかなあじゃねえよ。「政治的意図は」なんて愚にもつかないコメントと同じ土俵に乗ってどうするんだ。記者もデスクもこの映画見ろ。


     NHKも、アメリカに怒られた途端動画を削除して謝罪しているが、「配慮が欠け不快な思いをさせお詫び」だから何が問題なのか完全に無知だと自白している。恥の上塗り。

     環境問題と同じく全世界的な問題だから、よくわかりませーんてのは信用問題にも関わりおたくらの好きな政治的にも非常にマズイんだけどな。その辺のコーチ屋の半額で研修したるよ。全然意味ある内容にできる自信あるし。映画見せるだけやけど。

     

     さて本作は、一応反対の立場の共和党議員らにもインタビューしているのだが、人選に悪意があるのではないかと穿ってみてしまうほど、ツルンとしたいけ好かないのばかりだった。一方、マイケル・ムーアやジョージ・ルーカスが蛇蝎のごとく嫌っている共和党の大物ニュート・ギングリッチが黒人側に理解を示す発言をしているのは「へー」というところだった。ま、マイケル・ムーアの語り口でしかよく知らないからだろうけど。

     

     本作が明らかにしているのは、奴隷制度がなくなった後も、黒人ないしは中南米移民も含めた有色人をスケープゴートにすることによって延命を図ってきた仕組みが形を変えながらずーっと続いてきているということである。
     なのでデモのこの拡大ぶりは何も不思議ではない。一方、全く融和を図るポーズすら見せようとしないトランプも、単に彼が特異な人物というだけでなく、デモ側の主張を受け入れることで失うものがある、というのを物凄く恐れているからなんだろうなとも理解した。100分程度で勉強になった。これ丸パクリして取材しなおすだけで、日本じゃ町山の番組以外では誰も指摘してないことをえぐる特集なり記事なりが出来るじゃん。会議会議で出来たアニメが「ウサ」だから、会議やめて映画見てパクれ。


     合間合間には、ブリッジ的にブラックミュージックが差し挟まれる。あまり詳しくない分野だが、俺でも知ってる名前でいうと、ニーナ・シモン、パブリック・エネミー、アッシャーなど。歌詞にも字幕があって、そこで歌われていることは、まさしく本作で描かれていることそのものだった。無論、だから選んで使っているんだろうけど、つまりは昔から公然と歌われてきたことで、知られざる実相でもなんでもなく、ずっとそうだったということなんだな。これも勉強になった。

     

    「13th」2016年アメリカ
    監督:エヴァ・デュヴァネイ


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