【やっつけ映画評】ドゥ・ザ・ライト・シング

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     スパイク・リーの代名詞的な30年ほど前の作品(そして未見)につき、こちらも今見るべきだろうと考えたのが、結構困惑させられる作品だった。警察官が黒人青年を過剰に制圧して窒息死させるとか、「俺は将来この街にビルを建てて不動産オーナーになる」と夢を語る人物が「トランプかよ」と茶化される台詞があるとか、期待通り(後者は予想外だが)妙にタイムリーな部分はあるのだけど。


     大きめの小屋で大人数でやる演劇のような作品だという印象を受けた。といっても大方の人には意味がわからないだろうから説明しよう(前にも書いたかもしれんけど)。
     大きめといっても世間基準では中小のホールだが、俺たちゃ自らを「小劇場」と称しているので、このクラスでも結構な大箱になる。当然使用料金もそれなり嵩むので、客を集めないといけない。その一番手っ取り早い方法が出演者を増やす=知り合いがようけ来てくれる、である。ただし問題は、20人かそこらの役者をどうやって全員出すのかである。20人にそれぞれ役を振ったとしても、歌う、踊る、集団でガヤガヤする、最高裁判所の話をやる、でもない限り、1つの場面にそんなにたくさんの役者を出すのはかなり難しい(酒の席なんかで「通行人Aでいいから出して欲しいわ」と冗談で言ってくる人がいるが、演劇の場合「通行人A」なんていないんだよ)。


     なので、1〜4人程度のグループが右から現れ、いくつか台詞を喋って左に来ていく、といった具合に、舞台上にいる役者を次々と入れ替えていく手法を取る。「麒麟がくる」を借りて説明すると、十兵衛と左馬之助が会話をして「よし尾張に行こう」とソデに消えると、信長と帰蝶が出てきて会話して消える。入れ替わりで東庵と駒が現れ会話してるところに菊丸と藤吉郎が現れて、駒と3人でわちゃわちゃする。たまに朝倉義景が笑いを取る。といったことの繰り返しで展開させる。
     うっかり大河なんか例にとるから重厚なドラマをイメージしそうになるが、そんな筋の通った話なんか書けないor書く気がないというケースがほとんどなので、1つ1つの場面に話らしきものはあっても、全体の流れはそれほど明確ではない。こういうスタイルの常として、役者陣は総じてハイテンションだったりキャラが濃かったりするのだが、話らしい話がない分、各登場人物の行動原理がよくわからないので、なぜ叫んでいたり揉めていたりするのかついていけないこともしばしば。キャラの濃さだけが悪目立ちすることになる。


     本作は、こういう演劇ととてもよく似ている。
     ブルックリンの街、それもせいぜい2〜3ブロック四方くらいの狭い街区を舞台に、そこで暮らす住民たちの1日の様子が描かれている。多くのキャラクターは決まった組合せで登場する上、場所とセットになっていることも多い。場所を移動するキャラクターも何人かいるが、貧しい黒人が多いエリアで多くが失業しているせいか、あまり目的もなく日がなぶらぶらしているだけという様子である。そして出番の多い主要な登場人物は戯画化された特徴を持っている。要するにキャラが濃い。これら各登場人物の日常風景の断片が入れ替わり立ち替わりで展開していき、話らしい話は希薄である。

     

     というわけで、はてこれはどういう映画なんだ?と困惑し、そして昔よく見た演劇そっくりだと思った。問題はすでに紹介したこのスタイルの舞台作品が、俺自身は苦手な点である。なんとなく好かんな〜と思いながら見る羽目になった。
     余談だが監督自身は主人公のムーキーを演じているが、舞台の場合はあまりこういうことはなく、劇団の代表はラジオDJを演じていることが多い。全体を俯瞰するポジションにいて、かつ傍観者、そのくせ妙に目立つ、要するに最もおいしいポジション。俺はそういうお約束を避けたいクチなので、本作でいえばピザ屋の兄弟のどっちかをやると思う。地味かつ比較的台詞が多い損な役。

     

     スパイク・リーといえば当然、差別問題を期待するわけだが、本作で描かれているのは「弱いものがさらに弱いものを」の構図のやつである。イタリア系が黒人を見下し、黒人は韓国人を見下しているが、アングロサクソン系からは総じて見下されている側になる。この街の住民としては1人だけアングロサクソン系白人ぽい若者が一瞬登場するが、「ここは自由の国だよ」とやたら態度が軽やかで、難関大学のやつほど学歴を気にしない図式と同じである。

     一方、警察官はラスト以外は割とのんびりしていて、そこまで威圧的ではなく、むしろ公平な態度を取っている。今問題になっているのは、警察、ひいては大統領自らが差別を撒き散らしているから、それに比べるとずっと牧歌的に見える。

     

     「13th」によると、80年代は(すでに今と同じ警察による犯罪は起こしつつも)今より警察が重武装じゃなかったり刑罰強化の方向性が始まったばかりでその後ほどはひどくなかったのかもしれない。ついでに時代が未来へと向かっている明るさのようなものが今よりもあったはず。なのでかどうか、ラストもDJの「投票に行こう」という台詞で締めくくられており、全体的にはカラっとしている。30年後の今見ると、そのことにまず暗澹たる気分になる。退行しとるやんけ。

     

     8割方ダラダラと展開しながら、最後の最後に一気に緊迫して暴動&死者発生になる展開も、くだんの演劇っぽいのであるが、警察がさして役に立っていない(どころか1人死なせている)のは見逃せないポイントである。普段の鬱憤の積み重ねが、くだらないことで爆発した格好の騒動であるが、結局これを防げるのは行政しかない。警察が役に立つのは、悪ふざけで水をぶっかけるシーンや、爺さんが子供を助けてトラブルになるシーンで場を収める役回りのときだと思った。

     

     

     さて肝心の、ムーキーが最後になぜごみ箱をなげて暴動の発火点を演出したかである。わかるようなわからんような場面だ。そもそもムーキーは、勤務態度が悪い。雇用主のピザ屋は、長男の敵対的な態度はともかく、少なくとも店主は(妹に色目を使った疑惑以外は)常識的なおっさんである。口うるさいところはあるが、ムーキーがサボり気味なのだから当然でもある。このためろくに仕事もしてないくせに、どういう了見でごみ箱を投げれるんだと不愉快に思えたとしても仕方がない。


     ただ俺の場合は全く個人的な理由で共感できないこともなかった。
     舞台を熱心にやっていたころ、俺は印刷屋で働いていた。社長は温厚な人で、時給も悪くなかったし定期的に昇給もあった(今ねーよ)。舞台のために欠勤したり早退したりするのも、「あそう」くらいで内心は知らないけど何の問題もなく、非常に恵まれていたと思う。
     だけど出勤するのが毎日嫌で嫌で仕方がなかった。ルーティン性の強い仕事で退屈だったというのもあるが(ついでに印刷物というのは「出来て当たり前」と思われがちな商品なので、クレームが来ることはあっても感謝されることはほとんどない。あとブルーカラーをやってみてわかったのは、ホワイトカラーのかなりからぞんざいな態度を取られることで、こちらはバーカとお気楽に眺めていた。ただし出世している人ほど最低限の敬意を絶対おろそかにしないので、これもまた弱い者がさらに弱い者のパターンかも)、単に生活のためにやっているというのが最大の理由だと思う。

     仕事なんてそんなもんじゃん、というレベルではなく、本当に口に糊するためだけだった。そうするとどんどん勤務態度は悪くなっていって、自分でもヤバいと自覚してるんだけど、どうにも改まらない。職場は恵まれている方だったからよけいタチが悪い。ムーキーを見ていて、あのころの自分を思い出した。

     彼にも店主に文句をいえる筋合いはひとつもないのだが、さぼり気味になる彼なりの理由があるのだろう。俺が彼の立場だったら、ごみ箱は投げなかったとしても店主の側に立って暴動を止めようとはしなかったような気はする。ちょうどいい機会だ、辞めよう、ダメな自分とも決別しよう、といった理由で。なんの正当性もないんだけど、自分の中でだけはタイトルの言葉通り、正しい行いをやることとして成立はする、と、これはほぼただの自己弁護だな。

     

    「Do The Right Thing」1989年アメリカ
    監督:スパイク・リー
    出演:ダニー・アイエロ、オジー・デイヴィス、ルビー・ディー


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