【やっつけ映画評】パブリック 図書館の奇跡

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     上下水道とゴミ収集の次に世話になっている公共サービスが、俺の場合は図書館だと思う。図書館ヘビーユーザーだった両親の影響もあるし、大学以降は調べものの利用も加わった。
     調査利用をする身からすると、希少資料を所蔵している図書館ほど「よい図書館」になる。国会図書館がその筆頭だが、地方の図書館は郷土資料はともかく、それ以外となると心もとない。所蔵資料の潤沢さ(さらにいうと、図書館そのものの種類の豊富さ)は都市部にアドバンテージがある。俺にとって図書館の充実は、有名作品の来る美術展、海外ロックバンドの来日と並ぶ「都会かどうか」の指標の一つだ。
     と思っていたが、こういう公共施設の充実は「無駄」ということになって久しい。維新を信用しない理由なんて、国際児童文学館を潰した一件だけで十分足りる(という言い方に違和感が出るくらい色々ありすぎるが)。代わりに中之島に「こどもの本の森」なるものが出来たが、図書館法に基づく図書館ではないといい、蔵書数からしてショボい。立地や見かけの話題性と合いまった羊頭狗肉ぶりはいかにも今の大阪である。


     そういう俺からすると、図書館を舞台にしている時点で俄然興味が湧いた本作であるが、図書館=蔵書という側面はあまり描かれていなかった。つまりこの原稿もこういう書き出しにする必要性は全くなかった。単に映画の邦題にかこつけて文句を書きたかっただけだ。

     

     以前に紹介した「ニューヨーク公共図書館」で示される図書館像と同じ「社会の受け皿」としての機能にフォーカスした内容だった。まさしくタイトル通り、パブリックとは何か、がテーマになっている。


     図書館とはセーフティーネットであるというのは、アメリカでは広く共有されている感覚なのだろうか。本作登場人物の台詞のいくつかは「ニューヨーク〜」で登場する本物の職員も口にしていた。日本でも一応そういう部分はあるのはあるが、当の司書の人々自身にセーフティーネットが必要な惨状になっているから存立危機事態である。


     主人公のスチュアートが勤める図書館には、毎日のようにホームレスのグループが訪れてトイレで歯を磨いたり、読書したり、インターネットで遊んでいたりする。スチュアートは彼らと真摯に接しており敬意を持たれているのだが、ある寒波の夜、ホームレスたちが「外に出たら凍死する。シェルターは満杯」として、閉館後の図書館に強引に居座ることとし、スチュアートは彼らの実力行使に巻き込まれることになる。
     そうして警察がやってきてにらみ合いとなるのだが、ここからの展開はまさに今アメリカで起きている出来事と同じで実にタイムリーだ(日本での公開が今になっただけで、2018年の映画だから予言的作品ともいえる)。ホームレスたち(と、彼らに同調することを選ぶスチュアート)は、単に居座っているだけだ。居場所がないことに加え、邪険に扱われていることへの抗議というデモ的な要素もある。不法占拠にはなるが、犯意という点では大したことではない。

     

     一方、現場に居合わせる検事は、スチュアートが「ホームレスたちを人質に立てこもった凶悪犯罪」であるとして強硬手段に訴えようとする。この検事を演じるのが久しぶりに見かけるクリスチャン・スレイターで、かつてのイケメン俳優もすっかりおっさんなのは時の経過から特に驚きもしないのだが、李明博に妙に似ていたのが意外だった。七三と眼鏡、高圧的で陰険な役どころが手伝っているのだろうが、それにしても瞬間瞬間そっくりになるところがあって可笑しかった。逆に考えると、外見には特に見るべきところもないあの元大統領も、若いころは男前だったということだろうか(現職文在寅の若いころは笑かすほど男前だが)。

     

     抗議行動に対して、意見に耳を傾けることをはまったくせず、犯罪者だとして警察を投入するのはトランプがやっていることと全く同じだ。彼が排除によって解決を図りたがるのは、これまでずっと差別的言動で支持を集めてきたから選挙対策ともいえるわけだが、本作の検事も、市長選に立候補中で、支持率の劣勢を挽回するためにやっている様子が描かれている。

     

     ただし、この検事は序盤で憲法が定める人権を根拠に、スチュアートたちを説教しており、どうもちぐはぐである。それ以外にも、交渉人刑事の息子が薬物中毒で家出中という設定が、(オピオイド問題という時事性はあるものの)物語の中で浮いていたりと、脚本はそれほど巧いわけではない。「がさつな美女は主人公に都合よく惚れがち」という部分も、時事性の強い作品だけに、その古臭さが目立っているように感じた。

     

     それでも要所要所に笑える部分があったり、図書館への愛がうかがえるところや、図書館職員が総じて誇り高いところ、なんでか納得させられてしまうラストのオチもあり、全体的にはおもしろいいい作品だと思う。

     

     さてこのラスト、笑いによってどこか問題をうやむやにされているような気もしないでもないが、抗議行動につきまとう敵愾心をどうするかという点では面白い提示といえるのかもなと思った。


     

     つまり、突入してくる警官隊の攻撃性をはじめ、彼らの行動に対する「公共の図書館を私物化しやがって」とかの住民からの非難(こういうことを言う人は図書館なんか利用したことがない人がほとんどだというのが相場だが)、あるいは彼らに賛同しない本作の鑑賞者からの反発(元々見に来ていないと思うが)、こういうのをすべて無化する効用は持った行動のようには思う。古典的な手法といえばそうだが。


     そして本作には、2番目の、スチュアートらに反発する市民というのは一切登場しない。唯一、その任を担えそうなのが地元テレビのリポーターだが、彼女の描かれ方が、独占スクープを欲しがる浅はかな人、くらいの薄っぺらさだったのが、その点残念であった。

     

     パブリックという概念は人類の発明品のひとつだと思うが、積極的に破壊しているのが昨今である。コロナでこの流れが少しは変わるかと思ったが、今のところはジョンソン英首相が多少宗旨替えしたくらいか。

     ちょうど、コロナで延期になっていた採用活動が再開され、オンラインで面接練習をしろと仕事が増えていて、公務員志望者の学生諸君が口をそろえて「PRの必要性」を強調してくる。

     前にも書いたように、それしか思いつかないからだが、逆に何でそれは思いつくかというと、世間が電通化しているからだろう。テレビに出まくっている吉村が支持を集めるのだから、その感覚はある意味正しい(ただしテレビに出ずとも支持が変わらない我らが首相はその上をいく)。そういう中にあって本作は、「裸」一貫でやり直せというておるのかもしれん。


     それにしても本作の邦題も洗浄案件だな。「奇跡」って、本作に描かれていることは、「ちょっとイイ話」と誤解しているか、そうとでもしないとウケないという思い込みがあるのだろう。これは大真面目に考えないといけない問題ではないかと思い始めている。

     

    「The Public」2018年アメリカ
    監督・主演:エミリオ・エステヴェス
    出演:アレック・ボールドウィン、テイラー・シリング、ジェフリー・ライト


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