【やっつけ映画評】南京!南京!

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     歴史関連の本はよく読むが、歴史小説はほとんど読まない。最近では小説にする意味はどこにあるのだろうとすら考えてしまうようになった。ある人物がなぜそのように行動したのか、心理描写や場面として示されるより、当人の立場や時代背景といった事実分析の方が面白く感じてしまう。簡単にいうと、小説はまどろっこしく感じてしまうことが多い。

     映画や大河ドラマのような映像作品になると話は別だ。映像の再現力に寄るところが大きいのだろうと思うが、もしかすると映像の方が小説よりも描き方が多様になっているのではないかとも思う。歴史小説をそんなに読んでいるわけではないのでただの偏見の可能性もある。少なくともここ数年、たまたま手に取った小説から受けた印象でいえば、いまだに「昔の大河ドラマ」のような文法で描かれているというのか、古臭さのようなものを感じることが多かった。

     

     タイトルがダサいが、そのまんま南京事件を描いた作品で、かなり面白かった。映画として制作することの意義がよく練られている。そんなことを思った。

     

     戦争を題材にした映画は多い。映画向きだからだろう。森とか砂漠とか都市とかいろんな風景の中をたくさんの人間が入り乱れ、文字通り生死が交錯しと、景色としても場面としても自動的に変化に富むことになりやすい。半沢さんのように、油断すると会議室で立ったり座ったりして喋ってる場面だらけになるビジネスものとは、ビジュアル面での前提がまるで異なる。

     

     さらに、命がむき出しでやり取りされる分、最初からドラマチックでありつつ、テーマがテーマだけに、ヒロイックさとかロマンスとか、わかりやすい娯楽方面に流れることには慎重になる。安易な描き方が許されない難しさが、作り手冥利には尽きるといえる。アメリカでは、ベトナム戦争やイラク戦争、第二次世界大戦、第一次世界大戦、今現在もこれらを題材に新作が制作されている。前者2つはアメリカが悪玉、後者2つはどちらかといえば善玉側、無論傑作駄作色々だが、色んな切口で積極的に作られている。

     

     日本だと、古い戦争映画は結構多いが、新しいものになると数はかなり限られる。金のかかるテーマだからという財布の事情もあろうが、今更古い話を持ち出して、それでも新鮮に描く方法が思い浮かばないという視点の痩せ細りもあるはずだ。本作が動画配信でしか見れない現状では、豊かな視点を持てるはずもない。せいぜい季節の風物詩がごとく、夏になると戦争モノのドラマが作られる程度。ワンパターンにならないような工夫は一応見れるが、映画とドラマと併せても「この世界の片隅に」がトップランナーなのが現状なのは寂しい限りだ。

     一方、本作の制作国である中国はさすが金はあるようで、陥落した南京のセットも、エキストラの数もかなりのものだ。日本兵を演じた俳優たちに著名な人は特に見当たらないが、こんな大がかりな作品に出演できるのは役者としてはありがたい。無名なら尚更だろう。こういう作品が外国で作られ、ネット配信でしか見れないというのは、凋落と原因がセットのようで象徴的に見えて仕方がない。ついでに、首相の辞任を海外メディアの方が先に報じていたこととも重なって見えてしまった。東ドイツ化が進んでいる。とりあえず、「一人っ子の国」と合わせ、元を取ったような気がしてきた。

     

     本作のコメント欄には、予想通り、あれがおかしいこれは捏造だとか熱心に書き連ねて★1をつけている感想が並んでいる。わざわざ本作を見た上で書いているので、この手のことでよくいる「見ずに酷評するバカ」とは異なる。一定以上の映画好きだろう。「面白くなかった」というのなら、それは好き好きなので自由だ。作品の出来自体を評価しつつも猯鮖棒鎰瓩鮖呂瓩討い襪里蓮映画の感想を党派性が上回っている点、なかなか深刻だと思う。

     

     他方で本作が、制作国の中国でも非難に晒されているのが面白い。日本軍に同情的だというような非難である。そう受け取る人がいてもやむを得なさそうな描き方ではあるが、そういう意見が大勢だと、これはこれで党派性が先を行っていると思う。
     いい/悪いとか、正しい/間違っているとかの二元論では回収できない部分をいかに描いていくかが、昔っから文学が追求してきたことの1つで、それは映画においても同じ。本作は政治的にデリケートなテーマに果敢に挑み、いかに劇映画として成立させるかという監督の苦労や心意気が垣間見えて、誠実ないい作品だと思った。


     それは例えば、序盤に登場するいかにも主人公っぽい男前の中国人がかなりあっさり殺されてしまうことだったり、中国人に対していくらでも傲慢で残虐な態度が取れる日本軍の伊田が、部隊内では兄貴肌のいい上官といういかにもあり得そうな二面性の描き方が実に自然だったり、慰安所の女性たちが、ぞっとするような空虚な目をするところであったり、日本軍に怯える南京市民のモブシーンが不謹慎にも妙に美しく見えてしまったりと、丁寧に考えられた印象に残るシーンによく現れている。

     

     本作には、これといったストーリーがない。虐殺シーンは割と序盤に用意されているのだが、なんであんなにたくさん殺されないといけないのか、これといった説明的要素はない。なんか知らんけどそうなっているという描き方だ。主役級の登場人物は何人かいるが、特に誰が話を転がしているというわけでもなく、単にその場その場でそれぞれが必死な様子が綴られるだけである。それでもぐいぐいと引き込まれたから制作陣の力量は大したものだ。このような描き方は、劇映画ならではかもれしれない。ドキュメンタリー風味ではあるが、この第三者視点的描き方は、ドキュメンタリーだと無責任な印象を受けそうな気がする。


     しかし、何で本作はモノクロなのだろう。モノクロしかなかった時代だから、本当っぽくなるようでありつつ、モノクロは話を過去に定着させるところはある。古いフィオルムをカラー化すると、途端に現代との地続き感が出るが、ちょうどそれの逆になるからだ。その点、保険にしたといえるかもしれない。ここまで金かけてセット組んだのだから、単純にもったいない話なのではとも思った。


    2009年中国
    監督:陸川
    出演:劉、高圓圓、中泉英雄


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