【やっつけ映画評】なぜ君は総理大臣になれないのか

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     気にはなるが劇場に足を運んでまでは…、と二の足状態だったところ、オンラインで見れると知り、見た。「〇日までオンラインで見れますよ」と言われると、ついその気になってしまうものですね。


     2003年から2020年までの長期間の撮影をまとめたドキュメンタリーなので、登場人物たちがどんどん老けていき、子供は大きく成長していく。家族史として貴重な映像になっている。主人公が概ね同世代なので、余計にその加齢ぶりがリアルに感じられてササるところがあった。この主人公の場合、毛量に変化がないので彼我の差は歴然、違う意味でササるところも多々。


     本作の主人公小川淳也が自身の故郷である香川1区から出馬するところから映画は始まる。俺もかつて香川にいたから、背景の映像が何かと感慨深い。彼の出馬は俺の在地期間とちょうど入れ替わりなのだが、知った顔は幾人かいて、序盤の画質の粗いビデオ映像には、男・S本を筆頭に知ったのが数人映っていた。

     記者という職業柄、テレビニュースにチラ映りするのはよくあることだが、映画となるとまた格別。やっぱり映画館に出向いて銀幕で魁S本塾の雄姿を拝見するべきだった。あとどうでもいい話だが、小川氏が最初に演説している東植田の田んぼは、かつて犬を追いかけるという仕事なのか何なのかよくわからない任務で駆け回った個人的に懐かしい場所だった。


     そういう知らないわけではない土地の人なので、俺にとっては知り合いの知り合いがアルカイダならぬ、知り合いの知り合いが小川氏になる。行きつけの店のバーテンダーが、氏と同級生でクラブも一緒だったんだっけか。かたや東大にさっくり合格するような学力のあるさわやか男子で、ついでに同学年の美女と交際しそのまま結婚。キャリア官僚として総務省入庁。かたや労基署案件の駄目企業で訪問販売やらされ、体を壊して退職したときの所持金が250円だったという仕上がったミジメ人生をへてシェイカーを振っている。「俺の同級生が、次の選挙に出よるけん」と語る表情が、百科事典に載せたくなるルサンチマンぶりだったのをよく覚えている。


     地方にいても、総務省の役人とは接点が多い。小川氏もそうだが、地方自治体に出向するのがお約束の人事コースだからである。大抵「東大では登山にあけくれてました」くらいのほどほど泥臭い経歴を、肌をつやつやさせながら人懐っこく語るような、爽やかさが鼻につくような人が多い。そしてやたらと頭がよく弁もたつから、反発を覚えながらも、どこか脱帽してしまう。本作冒頭に登場する32歳の小川氏も、まさにそんな人物で笑ってしまった。年相応に青臭く生臭いところもありつつ、この年ではなかなか持ちにくい見識の持ち主だと思った。

     

     映画は、民主党政権の終了まではダイジェスト的に進み、自公政権になってからの自身の所属政党の迷走、つまり民主→民進→希望→立憲&国民のドタバタに翻弄され自身の身の処し方に悩む小川氏の様子を映し出している。ついでに田スシローが飲食店で寿司以外を食している姿も映し出している。


     見ていて思ったことの一つは、逆岡目八目というのか、希望の党を選ぶことの狎気靴記瓩竜浸体験である。
     当時、外野からすれば希望への合流は悪手以外の何ものにも見えなかったが、なるほど中にいるとそうやって葛藤が発生するのかと思った。画面に映る人々、誰も政策や主義主張の話をしておらず、勝てるか勝てないかの話ばかり。そりゃまあ、それが最も切実で喫緊の課題だし、それが政治であるとリアリストぶるのもひとつの立場だろうから、完全に否定できることはではない。否定はできないが、だがしかし。


     小川という人は、理想主義者でありつつ「政治家をやるからには総理を目指す」と野心を隠さない。そのための打算も厭わないところがあって、田が彼を評価するのも、そういうマキャベリスティックな部分なのだろう。かつて田自身が取材した派閥の領袖と似通った部分を見出したというか。


     このため希望が掲げる政策が、自身の信条と相容れなくても、さらにそのボスが小池という全く信頼できない御仁であったとしても、「勝てること」や「勝ったその先にできること」といった打算(と前原との人間関係)が大きく横たわり、自身の思想信条は後景に霞んでいく。それが政治だ、綺麗事は当選してからだ、というのが古参の先輩議員や運動員、あるいは田のような政治に近い場所にいる人間の考えである。

     

     一方で、小川氏の支持者が一様に主義主張や政策の是非を問うのが面白かった。一見、義理人情しか考えたことのなさそうな、ヤカラっぽい爺さんが「なんで憲法改正いいよう小池のとこなんか行っきょんな?!」と、完全に輩の口調で政治信条を問うてくるところは、事実が偏見を超えてくる取材の醍醐味的部分だった(一方、同世代くらいの比較的上品な雰囲気の爺さんは、娘が手伝っているのが素晴らしい!とドブ板全肯定の薄っぺらいことしか言ってこない)。

     

     対抗馬の自民・ワニ動画平井が小川氏に勝るのは、所持金額と見かけの偉丈夫っぽさくらいなもので、とかく大したことのない人だ。支持者もどうせ知っている。単に彼が自民だから投票している。そこに異を唱える有権者が小川氏を支持するから、このような乖離が生まれるのは必然といえようが、だとすれば、問われるのは票読みばかりしている候補者側の人々(と田に代表される記者のつもりの人)のありようだ。

     

     監督は、理想主義者でクソ真面目な小川氏は、打算的な政治的駆け引きの能力に欠けており、政治家には向いていないのではないかと思うようになる。それはイコール、政治上手な人でないと大物政治家になれない日本社会なり日本の有権者なりへの問いかけでもある。一面それは正しい。そもそも選挙にいかない人が多いし、ワニ動画を見て、中学生の落書きのようなしょーもない書き込みをネット上にしてしまう平井のような人が当選してしまうのは有権者としてどうなのよという疑問も湧く。加えて作中で取り上げている選挙では、白票が5000あったと伝えている。政治不信を突き付けた、と一見格好よく見える一方で、現実にはただの白紙委任をしている=全否定しているだけで何も考えていない思春期のような有権者が5000人いたということで、これもまた有権者の姿勢が問われるべきことだろう。

     

     しかし、より本質的な問題は、候補者なり報道なり(あるいは本作監督も含め)にあるのではないかと、以上のような事情で感じた。特に、自民、公明、共産の支持者以外は、候補者なり所属政党なりの主張に着目する傾向があるから、理想主義なり政策論争なりを愚直に突き詰めていく必要があるんではないか。

     

     とりあえず小川氏は、右だの左だの中道だの言うのはやめた方がよい。便利な言葉ではあるが、便利な分、アホの言葉にもなっており、現状を見誤ることにつながる。実際、立憲民政党が典型的だが、支持しそうな層ががっかりするダサい対応をちょくちょく採用しているのは、右とか左とかに囚われているからではないかと思う。

     

     左翼も右翼も、極左も極右も存在する(し、「右でも左でもない」=ファシストも存在する)が、それらは別にスピーカーのLRゲージのような一直線に並んでいるわけではない。右だ左だいったら、政治家なんてほとんど「中道」だろうよ。少なくとも実際に政治に携わる人間が、自身の政治信条を語る際に口にするべき言葉ではない。何か、そっからのような気がしてきた。

     

     ところで小川氏は、監督と接するときは毎度毎度、30年来の知己を出迎えるように、大歓迎の笑顔で握手を求めてくる。氏に限らず、政治家はしばしばこういう振舞いをするものだが、作中何度も出てくるので妙に印象に残った。選挙を何度もやる中で身につくスキルと推測するも、初出馬のころからこんな具合だったから、こういうことが出来る人がそもそも政治家になるのかしらという気にすらさせられた。

     

     くだんのバーテンダーに、見た旨を連絡すると、「胸中複雑につき見れていない」との由。本作監督が小川氏を取材対象にしたきっかけは、監督の妻が氏と同級生だったからなのだが、それはつまり、バーテンダー氏にとっては過去の知己が登場人物としてもう一人加わることを意味するから、余計に目を逸らしたいとのことだった。色々と察し共感できてしまった。

     

    蛇足:揚げを旨そうに食う場面はいいシーンだった。

     

    2000年日本
    監督:大島新

    出演:小川淳也、男・S本


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