これはパイプではない Cesi n'est pas une pipe

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     例年のこの時期は繁忙期である。繁忙を構成する要素の1つが「時事」であるというのは昨年も書いた。昨年のニュースについて概説していく講義である。講義内容の性格上、前年の繰り越し部分よりも更新する部分が多いので予習が結構手間なのだ。


     資格試験の出版社が出している“時事総まとめ2021”みたいなテキスト(各社とも扱っている年+2の西暦を書くのは何でなんだろう。混乱するだけだ)を使って進めていくのであるが、ただただ法制度と統計、外交の合意内容なんかが機械的に書き並べてあるだけだから読んでもよくわからん。わからないだけならまだしも、読んでいて結構シンドイ。批評性がゼロだからだ。

     

     とにかく「成果」をひたすら並べているような記述となっているのは、この書籍のターゲット層がお役所の志望者だからということなのだろう。いわば志望先の仕事をまとめたような内容だから批判がない。就活業者は実際の採用担当より遥かにトミイ副部長な平伏追従を強いる傾向がきついことがしばしばだが、これもそれの現われなのだろうか。あるいはお役所界隈だけに、何かのお付き合いがあるとか。以前に類似の書籍の原稿を依頼されたことがあって、課題やデメリットなんかも盛り込んで書いたら「あなた左ですね」と言われたので、単に知性の乏しいのが作っているだけのことかもしれん。

     

     一応霞が関の人々は一般のイメージよりは遥かに仕事をしてるところはある。モリカケ桜の追及は、実は国会の審議時間全体からいうとごく一部にしか過ぎないという話とちょっと似たところはある。しかし、外交のような高度に政治的な話が顕著だが、公報通りに書くと政権の正史のようになるのが昨今の現状。なので読んでるとそのうち岩田巫女の声が聞こえてくる幻聴に苛まれる。巫女というか守護霊というか。

     

     このため他のソースに当たって補足していくことになる。改めて報道機関の記事で確認するとわかりやすくて腐ってもスナッパーを実感する。それでも昨今は限界を感じる。既存のフォーマットが通用しないからだ。

     

     記者会見ですと言って、全く記者会見のテイをなしていなかったら、記者会見になっていないと伝えないといけないと思うが、そういうフォーマットを持っていないので、「記者会見である」という前提は問うことなく、話された内容に対して論評する。饅頭ですと出されたものが石ころなのに、サイズが小さいとか色が悪いとか評しているような無意味さであるが、無意味なだけでなく、饅頭だとして伝えられ、何ならそう見えなくもない角度から撮影した絵を添えるから欺瞞であり、罪深くすらある。


     どうしてこうなったかといえば、饅頭ですといって出されたものは、サイズや味に議論の余地があるといはいえ、曲がりなりにも饅頭ではあるという建前の成立している前提で組み立てられたフォーマットしか持っていないからである。ではどうしてその建前が崩壊しているかといえば、その建前をぶっ壊すことが改革だとして歓迎されたからで、自ら求めて招いたことを語る語り口を持ち合わせていなかったということである。

     

     だもんで、半分在野のような末端の講師芸人風情が、未来ある若人相手にこれは饅頭ではないという役目を果たさなければならなくなるわけだが、そういう俺とて有効な語り口を持ち合わせているわけではないから、余計な苦労を強いられるのである。


    映画の感想:ブラックパンサー

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       テレビでやっているのを見た。マーベルコミックのヒーローものだが、主人公がいったんは悪役に敗れて地位を失い、その後復活してやり返す展開。まさかロッキーを見せられるとは思わなかった。ついでに、負けるときに育ての親みたいな人が死ぬので「ロッキー3」である。

       ところでフォレスト・ウィティカー演じるこの宰相みたいな人が、序盤の昔のシーンにちらっと出てくる間抜けな雰囲気の二重スパイ若人と同一人物設定だったというのが中盤でのどんでん返しだった。この頼りない雰囲気の若造が、その後こんなに貫禄出るのか。逆にフォレスト・ウィティカー当人の若いころがどんなんだったのかが気になってしまった。

       

       ロッキー要素はこれだけでなく、主人公が一旦敗れる悪役を演じているのが、「クリード」シリーズの主人公役の人だった。モチーフかぶりなくせに主役が悪役につき、ややこんがらがる。短髪のクリードと違って、ツーブロックのくせっけ長髪で、ワルを演じているせいか動きがくねくねしており、まるで中邑真輔だった。


       タイトルから当然想像するのは黒人解放の急進左派であるが、前半はそれとは正反対の王族の話だ。主人公ティ・チャラはアフリカのワカンダ国(という架空の国)の王子で、父の死によって国王に即位する。ワカンダは農業くらいしか産業がない貧しい国、というのが世を忍ぶ仮の姿で、実際には特殊な鉱物に恵まれ、そのヴィブラニウムというよくわからんがとにかくスゴい鉱物でもって最先端のテクノロジーを有したプレスター・ジョン伝説を地で行く超文明国である。

       そのような物凄い国力を持つ国の元首に主人公は就任するわけだが、話としては王族内のあれやこれやのファミリーストーリーで展開しており、為政者にとっての最大の問題が「一族」である点、王政を理解するのにうってつけの教材となっている。


       そういう中で、王族でありながら孤児としてアメリカで育ったキルモンガーが、天一坊よろしく王位継承権を主張してワカンダに現れる。ここから割と面白くなった。


       


      江頭仕事

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         毎年春に某私大で担当している授業について、私は先日の会談で、教室の対面講義という「完全な形」で実施することを主張し関係各位の支持を取り付けることができた。このため、動画撮影によるオンライン授業を提案し、100%の同意を得たため本日、撮影と相成った。「このため」の前後が真逆でおかしな文面になっていると思った人は我らが首相への信仰心が足りない。


         各大学の対応は分かれていて、開講を延期したところもあれば、この大学のように遠隔での方法を選択したところもある。オンラインにも大別して録画と同時中継の2つがあるのだが、どっちにしたって通信インフラの問題がまずある。テレワークでも、自宅にPCがない会社員が結構いるという話を聞いたが、学生にしても同じ。スマホには慣れていてもキーボードを使わせると爺さんみたいな一本指打法になる若人はそう珍しくない。

         当然動画となれば、CMでやっている通り「ギガが〜」という事態になるからWi-Fi求めて結局人の集まるところに行く羽目になる。ついでに同時中継は通信が込み合ってうまくいかない旨も聞こえてくるから、社会全体のインフラの話だったりもするんだろう。いや、YouTubeが込み合うから画像を落とすというニュースも出ていたから、インフラというよりは結局は「そういう事態」ということか。


         その辺の話とは別に、授業を撮影すること自体、イメージよりは厄介だ。最も厄介なのは厄介だとあんまりわかっていない人が多いところだろうな。カメラと撮影対象さえあれば出来上がるわけではない。今回の場合は、会社がカメラにしろマイクにしろ編集ソフトにしろ諸々機材を持っていたので第一段階はクリアだろうけど、ちゃんと撮れる人がいなかったので、三脚に固定したままだった。

         殺風景な会社の会議室で固定カメラに向かって熱弁振るってたから、アメトーークに出てくる江頭2:50状態である。まあ撮影は難しいものであるから仕方なし。自主映画のとき、たまたまカメラの扱い慣れてる人に手伝ってもらえたときが一度あって、あのときは普段と違ってめちゃくちゃ楽だった覚えがある。


         そして演者、とつい書いてしまうが講義をする人間。俺自身は劇団主宰の講師芸人につき特段困惑はないのだけど、慣れてない先生方も多いだろう。はいどーもー!今日はマクロ経済学やってみた!とかおどけないといけないのかなどと冗談半分こぼしているどこかの大学の先生のツイートを見かけたが、誰も受講者がいない中で視聴者を意識して喋る際に必要なメンタリティは、本質的には「はいどーもー!」と言っているのと変わりない。


         俺はというと、カメラを前にして普段の授業より演技濃い目だった自分がいたのは間違いない。映画じゃないのでNGの許容範囲は緩めではあるが、間違えてはいけない事務的な部分で説明を間違えたので、テイク3までいった(要するに同じ箇所で2度間違えた)。ま、誰が読んでいるのかもあやしいこのブログを10年以上も書き続けているのだって、やってることは「無人の会議室で講義」と似たようなもんである。どうでもいいが、教室でこれをやる場合は「無観客試合」と呼ぶ人が多い。


         そして編集。大学側と折衝している会社の担当氏に、編集段階でこういう画像挿入できます?などと尋ねると半笑いだったので、手間賃くれたら編集やりますよ、と申し出た。そうなればいよいよユーチューバーである。担当氏からは「限定公開なんで広告費入らんすよ」と言われたが。


         なんせ学生にしてみれば他の授業も合わせて1日4コマ計6時間動画を見ないといけないから、せめて少しは見る気の起こるものにはしたいところである。それでレポートの出来は例年と比べてどうなるのだろうという実験の側面を持っているわけだが、予想では大して変わらんのじゃないかと思っている。悪かったらまだしもよかったら教室の講義の存在意義が揺らぐな。

         ちなみに中継にこだわる大学があるのは、出席管理の問題で、これは近年文科の指導もあり単位認定における出席の割合が厳しくなっているせい。録画視聴だと必然、遅刻扱いがなくなり緩くなる。これは数少ないイイことかもしれない。

         

         とりあえずは連休まで録画ということになっているが、先が見えないのでその先どうなるか不明。最近JRの遅延表示がヒドくて、本来は「5分遅れ」のような表示は見通しを表示するもののはずだが、5分たっても来ないなあと思っていたら「6分遅れ」に変わってて、それでも来ないなあと思ったら「7分遅れ」になって、と、事後報告なら意味ねーじゃん時計見たらわかるぜ、という間抜けな状況をよく目にする。最近あれをよく思い出す。


        【やっつけ映画評】レ・ミゼラブル

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           こういう世間一般にはそれほど知名度がないが、映画好きなら総じてチェック済というような作品は、上映館が少ない分混む(封切間もない日に見たから余計だが)。混むといっても知れた人数ではあるのだが、誰も咳をしてなかったのは余計なことを考えなくてすんで何より。ただ、映画で描かれるのが貧困区域なだけに、こういうご時世、彼らは今大丈夫なのかしらと制作者の意図していない心配がむくむく。


           昔「人間失格」ならぬ「人間・失格」なるドラマがあったが(太宰の遺族から抗議があって変更したんだとか)、本作はそのまんま「レ・ミゼラブル」で、19世紀でもなければジャン・バルジャンも出てこない。ところでついジャン・バル・ジャンと読みたくなる。問題は「MIゼラブル」か「ミSERAブル」かであるが、グーグルで音声を聞いたらどっちも違った。


           パリ郊外を舞台にしたフランス版「シティ・オブ・ゴッド」ないしは「デトロイト」。アフリカ系があまた暮らすいかにも貧しい世帯が多そうな地域で、住民と彼らを取締る警察官との対立いざこざが描かれている。
           撮影好きのオタク少年が重要な役割を演じる点はまさに「シティ〜」と同じだが、特別公務員暴行陵虐罪を繰り出しまくる警察官を延々見せられる構図は「デトロイト」と同じで結構キツい。ついでに後味の悪さも「デトロイト」に同じ。一方で次から次へと登場人物が死んでいく「シティ〜」と違って、本作は死人が出ない。理由は単純で、誰も拳銃を持ってないから(警察官は所持しているが、基本は催涙スプレーとゴム弾を使っている)。フランスの銃規制はそれなり厳しいらしい。数少ない本作の救い(ただしラストの暗転以降はどうなったかはわからないが)。

           

           「デトロイト」と異なるのは、先ほどアフリカ系と書いたが、本作の場合、白人/黒人のような単純な二項対立ではない点だ。漆黒の肌の人もいれば、アラブ系っぽい人もいるし、ロマもいる(ロマの登場人物の全く人の話を聞かずに自分のいいたいことをまくしたてる様子は、しかるべき団体から抗議が来るんじゃないのかというくらいのエキセントリックさだった。とにかくうるさい)。宗教的にも、敬虔なイスラム教徒がいたり、不真面目そうなイスラム教徒だったり、色々だ。
           これが実際のフランス社会なんだな。英国に次ぐ植民地帝国だった歴史を再確認させられる。マクロンかエアバスの工場か農家のおじさんくらいしか登場しない日本の国際ニュースでは見えにくい世界である。唯一つながりを感じるのはサッカーのフランス代表チームで、本作の舞台モンフェルメイユには、いかにもこの混沌から這い上がったアメリカンドリームならぬレッフランセな選手がいそうだと思ったが、wikiで見る限りは俺程度では知らない選手の名前しか出身者の記載がなかった。

           

           とにかくこのような多様な人々がいる町を見るにつけ、社会の安定のためには法治しかなさそうだ、というかしばしば人治と揶揄される日本社会は結局のところ単一性の高さゆえに可能なんだろうと思った。興行やめろ、補償はない、五輪はやる、で納得する人間ばかりで構成されている社会かそうでないか。本作を見る限り、少なくともこの町の人々が全員「それで仕方ねえな」と言うとは到底思えん。麻生とか、日本会議系の議員が「単一民族」をやたら強調したがるのも、地位を失う恐怖のようなところから発しているのかもな。

           

           


          【やっつけ映画評】1917 命をかけた伝令

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             疫病禍の中での数少ないいいことが確定申告の締切延長だった(もう一つは小学館の「まんが日本の歴史」が無料公開されていること)。作業を始めた当初は「どうして昨年はあんなにあっぷあっぷだったのだろう」と自身の余裕が不思議だったが、しまいに「どうして昨年は期日までに提出できたのだろう」と絶望的な気分になっていた。助かった。いい加減学習しないと……。


             ついでに休講措置に踏み切る大学も出てきて多少スケジュールに余裕が出てきて(しまい)、ようやく本作を見に行くことにした。映画館はがらがらでむしろ安全との話も聞くが、いざ当日券を買おうと券売機の画面を見ると、かなり埋まっていてあらびっくり。上映期間終了間際の駆け込みかしら?と思わぬ盛況に疑問を覚えつつ購入。ところが実際の客席はがらがらである。

             どうやら観客同士が席をあけて見るよう、あらかじめ購入できる座席に制限をかけていただけのことらしい。他の客も意味がわからなかったのかどうなのか、とにかく5、6人全員が、がらがらの会場で近い席を購入しているのが不条理喜劇。本編開始と同時に移動してゆったりと鑑賞した。予想通り、スクリーンで見るべき映像の作品であった。

             

             第二次に比べると映画化の少ない第一次世界大戦を扱った作品が立て続けに上映されているのはどういうわけなのか。とにかく「彼らは生きていた」に引き続き、西部戦線の話である。タイトル通り、「彼らは〜」でメインとして描かれるソンムの戦いのその後が舞台であるが、状況はちっとも変っていない。

             

             全編ワンカット、に見える長回しの連続が特徴(ないしは売り)なのだが、その狙いとするところは冒頭早速わかる。塹壕が、そこを歩く人物視点で延々と続く様子に第一次世界大戦を象徴するキーワード「塹壕」のリアルさを体感できる。「彼らは〜」を見た後なので、写真で見た観光地に来たような、お〜これが有名なあれか、という感慨があった。

             

             ここで、デジタル処理された実映像と、よく出来たセットを組んだ劇映画ではどちらがリアルかという問がやすやすと浮かぶ。大戦の実映像が20世紀初頭のモノクロ不鮮明映像だから成立する比較のようで、これは現代でも変わらない。本物も、撮りたいものを撮りたい場所から撮影できるわけでは必ずしもないから、作り物の方がその点では突き詰められるところがある。昔「ブラックホーク・ダウン」を見たとき、戦場カメラマンが撮りたい絵面のオンパレードだと感じたのを思い出した。

             

             戦争モノとはいえ、本作はちょっと変わった作品だ。ドンパチのシーンはあまりない。伝令としてある戦線から別の戦線に行くことを命じられた主人公が、ドイツ軍が撤退したエリアをずーっと歩いていくためだ。最初は2人だったのが途中から1人になるので、台詞も少なく、まるで「戦場のピアニスト」であるがあの作品より敵が出てこない。ただし本当に撤退していて不在なのかどうかわからない状況で移動していくので、いつどこから襲撃されるかわからず、ついでに意外な格好でピンチに見舞われたりするから、戦争映画というよりホラー映画のスリルがある。「ゆったり鑑賞」と書いたが、結構緊張させられっぱなしであった。ここでも、長回しを多用した主観的な映像が功を奏している。

             

             とはいうものの、伝令に行ってくるだけの話で、途中にドラマチックな起伏がそうあるでもない展開なのに、100分しっかり見せてくる作り手の技量が物凄い。何が凄いって、脚本だよなあ。文字段階だとこの作品、面白さの保証を全く実感できないと思う。
             一方で景色はどんどん変化する。砲弾で草木が消え去り、穴ボコだらけの死の谷みたいな場所から始まり、草原、石造りの街、渓谷、森、といかにもヨーロッパ大陸な景色が続いていちいち印象的である。最後の最後にはようやく大勢の兵隊が出てくるスペクタクルもあり、映画を見たなあという気分を堪能できる。

             

             それはそれとして、本作が描く戦争なり第一次世界大戦なりとは何なのだろう。

             

             

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