黄砂の神様

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      映画の神様の話を先日書いたけど、さて今週末の遠足ロケ撮影にその神様は味方だったのかどうだったのか、判断の難しいところであった。

     木曜だったか水曜だったか、週間天気予報を見た劇団の石川さんからの電話。

     「あんた、次のロケ、雨だったらどうすんの?」
     「映画の神様がついてるから晴れますよ」
     「あら、そう」

     その時点で予報は雨だったのだが、さて土曜早朝、天気は快晴。言うた通りだぜ。本日より俺は神の子と名乗ろう、と得意満面したり顔だったのだが、北陸線にドコドコ揺られて我らが裏日本にたどり着くと、何だか町が黄色く霞んでおるではないか。

     この日どこぞの町では光化学スモッグが出たらしいが、こっちのこのモヤモヤの正体は、裏日本名物黄砂である。中国奥地からはるばるご苦労さんなことだ。未だにしかし黄砂とは、ラニーニャ現象と関係があるのか…。不都合な真実…、というより単に我らに不都合な話である。

     それでもある程度予定通り撮影をし、夕方。某所まで夕日のシーンの撮影に行く。4月にロケハンを済ませておるのでその場所に向かうんだが、太陽の沈む位置が大きく違うではないか!

     当たり前の話だ。そんなベーシックなことも失念するほど、我々現代人は文明という名の脳化社会に毒されているのであった。
     というか、黄砂のせいでなんだか霞み目のような夕日で絵にならない。翌日に持ち越しとなった。

     仕切りなおして翌27日。黄砂は晴れて晴天が広がっている。今日こそは!と意気込んだのであるが、なぜか夕日の沈む場所にだけ厚〜い雲が。まさに裏にっぽん曇天カフェ、といってられないほど冷たい風が吹きさらして、交代で車中で暖房を浴びるほど冷えた冷えた。ロケは難しい。2日で終わらそうというのがムシが良すぎるのかもしれない。


    早速の撮影

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       居酒屋での撮影。昨日の今日で役者の都合もついたので早速の撮影となった。分量的には全然たいしたことはないので、1時間強で済んだのだが、それでも撮影となると雰囲気は大げさになるものだ。客が一組遠慮して帰ってしまったくらいなんで、やっぱり出先で撮影するのは大変である。

       森本さん演じる登場人物が、酔った勢いで電話の向こうの相手にクダを巻くというシーン。1人でクダまいて喋ればいいので、それだけ取れば済む話なのだが、こういう場合、その主役意外の背景となる人間(この場合居酒屋のその他の客=エキストラ)が画面内に映りこんで、ある程度動きを見せると画面に奥行きが出て締まってくる。エキストラの動きは、このクダを巻いてる主役とは何の関連性もなく、ストーリーにも何も影響しない。つまり全然別の位相を生きてる。そのくせ同じフレームに収まっている。3Dの意味だけでなく、いろんな人間がおるという立体感とでも言おうか。

       それで、矛盾したようにも聞こえるが、主役の動きとカメラの動きに連動する格好でエキストラが動くとさらに映画臭くなる。例えば主役が目線を動かす。それにあわせてカメラが横に振れる。それにあわせて、奥の客がビールを頼む、という具合だ。主役の目線の動きと、客のビールには何の関連性もない。何の関連性もないんだが、カメラの物理的な動きとタイミングをあわせた方が何かと映画っぽい雰囲気になるようなのだ。まあそんだけ世の中の映画は画面の端まで作り込みで出来てるってことですね。

       そんなわけで、エキストラで来てくれたサミー、サミーの友人のドイツ語通訳の人、クガ君に吉岡に、あれやこれやと注文をつけて何度もやってもらった。特に騙まし討ちのように呼び出されたのに、あまり戸惑うこともなく応じてくれたサミーの友人氏、ありがとうございました。

      喋りすぎの出会い

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         本日画家と出会ったという話。
         今回の映画の中で、絵が小道具として登場するシーンがある。映像一発で色んなことを説明してしまうという、映画ならではの話の転がし方というのをやってみたいからだ。前作は演劇を映像にはめ込もうとするばかりで、映像から展開を発想することが全くなかった。

         というわけでストーリーに沿ったモチーフの絵を用意しないといけないのであるが、一体誰が書くねんという、アテもなく台本に書いてしまった小道具に頭を悩ませる羽目になった。
         舞台だったら、そこそこ絵が描ける人間(役者には絵が描ける人が多い)にそれっぽく書いてもらえば小道具として成立するかもしれないが、映画となると、やっぱりしっかりしたものとそうでないものとでは、訴えかける力が格段に違うはず。見てるほうがいかにオトナな姿勢で寛容になろうとしても、違和感を感じた場合、それを払拭するのはなかなか困難なものである。

         ところが知り合いの居酒屋で、求めていたタッチの絵を見かけてしまったのである。早速店主を通じて連絡先を確認してもらって、出会うことができたのが光内さんである。
         電話でストーリーの概要と絵の役割についてまくしたて、描いてもらった絵がついに完成、受け渡しのこの日が実は初対面となった。

         絵の完成度は申し分ない。あとは役者の演技とカメラワークと役者の演技と音楽と役者の演技がかみ合えば、私の皮算用では観客は涙するシーンとなるに違いない。電話でまくしたてただけなのにこのデキ、世の中には凄い人がまだまだいくらでもいるということか・・・・・・、と前向きなことを考えつつ、小心なワタクシはソワソワしていた。一体いくら払えばいいんだ!

         「画用紙に描く場合は、一律**円なので」と、光内さんはあっさりの対応(ちなみに「助かります」という金額だった)
         いかにも画家という物腰柔らかな人で、銀座の画廊なんかで個展を開いているらしい。知り合いに別の絵描きがいるので、その世界の大まかな仕組みを聞きかじってはいる。俺の理解だと、「画家」と堂々と名乗れるステージにいるという立場だ。
         「文化活動は何でも東京やなあ」という話に始まり、絵描きの世界も小劇場の世界も、変なやつがようさんおるなあという笑い話、画家ならではの、いやしかしどんな世界にも当てはまる悩みの話などなど、興味深い話題に満ちた1時間だった。

         いずれにせよ、作品が金になるというのは、それによってまた新たな悩みが生まれるにせよ、今のところそこにすら至ってない俺としては羨ましいなあと思う。そして彼の絵がもっとたくさんの人の目に触れたらいいなあと外交辞令ではなく、思う次第である。

         こういう別分野で活躍してる人と出会うのは、新鮮な刺激があって、ある意味芝居人以上に楽しい出会いでもある。
         しかし彼のような話しやすい人と出会うと、俺はついつい多弁になるといういつもの悪い癖が出てしまう。いかん!

         その後、定宿の居酒屋アジトで、撮影の許可を求めると、「楽しそうだなあ」と大歓迎でOKしてくれた。居合わせたお客がやけに人なつっこい人で、その人、UDさんが妙にビールを一杯二杯とおごってくれるので、飲みすぎた。


        JETのライブ

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           バンドの練習が終わってガヤガヤしているところに会社員時代の後輩から電話がかかってくる。「飲んでるんすか」
          「いや、バンドの練習が終わったとこ」
          「…若いですね」

           そうさ俺は若い。この日の練習で「髪の毛少なくなりましたねえ」などとシミジミ言われたが、若い。なぜならロックンロールを信じているからだ。

           この後輩、間もなく海外へ出張に行くという。会社員が羨ましくなる一コマであるが、去る人あらば来る人あり。彼の行き先であるオーストラリアから、汗臭い男たちがライブにやってきた。JETである。この男たちも若い。なぜならロックンロールを演奏しているからだ。

           JETといえば、日本ではipodのCM曲、というよりは芸人が世界一に輝いたエアギターで“演奏”していたあの曲で知られる。21世紀にもなって歌詞が「ワンツースリー」だの「フォーファイブシックス」だの言ってるやけにゴキゲンな古臭いロケンロールを何のてらいもなくやってのけて、一気にブレイクした。私事を交えれば我らがバンドで最初にコピーしたのもその曲である。

           そんなJETが昨秋出した久々の新譜「SHINE ON」のツアーで大阪にやってきたので、喜び勇んで行って来たというわけだ。DVDでライブを見たことがあるが、生は初めてである。

           結論から言うと最近すっかりご無沙汰だった「ライブでアドレナリン」というのをたっぷり満喫できたすばらしい演奏だった。
          「SHINE ON」というアルバムは、雑誌ではやたら褒め称えられていたが、前作の「GET BORN」に比べると、若さに任せてロックンロールみたいな要素が削ぎ落とされて、評論家受けはいいが不満がないといえば嘘になるという内容だった。しかしライブで聴いた新譜の曲はいずれも格好よく跳ねて響いて、「ライブバンド」なんていう知ったようなことを言いたくなるパフォーマンスだった。同じく我がバンドでコピーしている「Get me outta here」なんて、「へえこんな曲だったんだ」と知らない曲を聴かされてる気分にすら陥ってしまった。

           加えてこのバンドのメンバーは、写真で見ると見てくれはちっともイケてないのだが、舞台上の佇まいは、DVDで見たときより風格も備わり、堂々かつセクシーで、交換留学生みたいなベースの半デブも突っ込み無用に格好よかった。せいぜい言えばドラムの巨漢が前に出てきて歌うのは、どこかコント臭が漂うのでやっぱりやめたほうがいいと思うというくらいだ。

           勢いを売りにした轟音8ビートは歳のせいか退屈にすら響いてくるようになってしまった。JETがスリリングなのは、アンサンブルがしっかりしているところが一つ。単純な話、どこで何の楽器がなっているかしっかり聞き分けられる。ボーカルもかき消されることなくしっかり聞こえる。それぞれのパーツの組み立てとして曲がちゃんと耳に届くというわけだ。

           もう一つはブレイクの作り方が上手いということ。ドラムが曲作りの中心だからかどうなのか、ドカン、ピタッ、というリズムのアクセントがとても気持ちいいのだ。確かなスキルに支えられた熱い曲を延々演奏し続けるところはブルースエクスプロージョン(BX)のライブにも似た緊張があったが、BXのライブが余所見したら死ぬみたいな張り詰めた緊張がもたらす快楽なのに比べ、JETの場合は緊張でもって単純さを現しているところが、わーいと楽しめるライブになっているのだと思う。

           JETの曲はロックの原点回帰といった原始さに魅力を見出されているのだが、確かにこれまでのロックの歴史の蓄積をデータベースのように駆使して作ったような曲にあふれている。リードギターはコロコロとギターの見本市のように何種類ものギターをとっかえひっかえ使っていたが、JET自体がロックの見本市のようなものだと言える。

          奈良終了

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             奈良での撮影がとりあえず終了した。役者も半数が上がりである。舞台の場合は出番の多寡にかかわらず公演の楽日で全員同時に終わりを迎えるという何やら大団円的な性格があるんだが、映画の場合は出番の撮影が終われば個々にクランクアップになるので、学校と自動車学校みたいな違いがある。全員で一斉に卒業することはない。俺は元々打ち上げの飲み会がそれほど好きなタチではないが、どこか寂しいのは否といえば嘘になる。

             しかし「終わったも同然」というわけではなくて、残り、長さだけでいえば2、3割程度の部分は、屋外のロケが中心で、天候に左右されるなどの面倒が多く、かつ撮影側にしてみれば楽しいものが残っている。
             例えば風景を撮るとか、努力ではどうにもならない要素(天気とか)を上手く切り取れると、映画としての出来栄えがググっと上がるだろうから、緊張してくる。

             週刊現代で井筒和幸が現在、撮影裏話のようなコラムを連載しているが、こういう努力ではどうにもならない要素を「映画の神様」と呼んでいた。なるほどいい言葉だ。運任せでかつ、最後は自分に味方してくれそうな響きを持ってるからだ。

             神様といえば、撮影が始まってから小さく変なことが続いてた。
             くしゃみが止まらなくなった人、熱を出す人、調子が狂った機材。俺はポケットの中が急に熱くなって火傷寸前になった。無造作に突っ込んだ硬貨やカギが、皮脂や汗で発電したんじゃないかと化学教師の石川氏は推量するが、そんなことあるんすかね。あと、朝飯代わりにアイスを食うやつがいたな…。向井のことだが。これは変なことというやり変な嗜好か。

             こうなると、周囲では当然のように「いる」とか「いない」とかいう話になるんだが、いるのは映画の神様だけで十分である。

              さて今回は編集の向井の努力により、撮り終わったカットはすでに粗編集として仕上がっている。取り合えずザザっと見たのだが、今後編集をさらにつめていくことでかなり面白いモノに仕上がっていきそうな可能性を十分感じる。

             何せ前作の編集は、「せめて見られるものにしよう」という実にネガティブな作業だったもので、いわば気分は正反対である。弾みをつけて、残りに挑んでいくとしよう。多分、映画の神様はこっちについている。なんせ自主映画ですから。小指のさきっちょくらい動かす程度に味方してくれれば十分でござんす。



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