病み上がり出張

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     出張で九州。天気予報が「荒れる」と警告しているので遅延に怯えながら乗車したが、早速「電線に飛来物が」とのアナウンス。ただし1時間以上前の話だったので数分程度の遅延ですんだ。

     

     しかし、寒い。予報では関西より格段に気温が低いと出ていて、案の定雪もちらついている。でも積雪がないのはなにより。というのも、これからレンタカーに乗るからである。会社に頼んで早めの列車にしてもらい、先に取材という名の観光をする魂胆である。
     向かった先は西南戦争資料館。まんまと大河に乗っかったお上りさんになってしまった。おそらく西南戦争は48、49話くらいの扱いになるだろうから、ずいぶん先取りしてしまっているが。

     

     ここはホームページの案内も車で来ることを前提にしているほどアクセスはよろしくない。熊本市内から小一時間ほど北上すると、田園地帯が現れ、やがてナビは山道へといざなう。どうやらここが有名な田原坂付近らしい。ところが、借りた車に搭載されているこの案内係は「目的地」の片鱗も伺えない辺りで「目的地周辺です、案内を終了しますブチッ」とガイドを放り投げてしまった。ナビってこんなんだっけ?
     そうしてまんまと道を間違えたらしい。田原坂の「三の坂」「二の坂」と下るうち、絶対反対方向だったと確信したが、何せ道が狭いし退避スペースもないしで進むしかない。結局「一の坂」を下ったところにある駐車場のような場所でようやく引き返すことができた。

     それにしてもなかなかの急坂である(わかりにくい写真しか撮れなかった)。沿道には竹が生えているので気にならないが、道路の下は急崖で、ガードレールもない。対向車が来ると結構怖い。いや、対向車はほとんど来ないようなところだが、全体的にどこかしら怖いというか何というか、とにかく独特の雰囲気がある。ここで激戦があったという知識による後付け作用でそう感じるのか。それとも、激戦の残滓は百年そこらでは消えないのか。しかし、なんでこんな狭いところに進軍したんだ、というのは現代人の発想で、たどり着いた資料館の説明によると、当時、付近では最も道幅が広いルートだったとか。

     

     話が前後したが、坂を戻り、反対方向へ行くと、広い駐車場にたどり着いた。この田原坂公園の一角に資料館はある。
     小ぶりな建物で、展示資料はさほど多くもないが、なかなか面白かった。薩軍寄りの説明記述をしているような箇所もありつつ、そうでもない箇所もありつつ、この揺らぎが西南戦争の特徴を表しているようにも思う。

     何せ狒蔚稔甍靴い気譴討い訶殍訛Δ割れて戦った戦争だ。「抑圧頑迷閉鎖的矛盾だらけ幕藩体制を、開明派の若者たちが打倒した」。「竜馬がゆく」だとこの爽快な図式で物語を閉じるから安心していられるが、その後はこの図式が当てはまらない。旧武士を率いて挙兵したのだから、守旧派の反動勢力と見なすこともできる。「八重の桜」で格好いい役どころだった元会津藩士の山川大蔵は、政府軍の軍人として「今こそ戊辰の恨みを」と奮闘したとか何とか、何かの本で読んだ覚えがあるが、どっちも元あんたの敵だし、何なら旧武士勢力という点で薩軍の方があんたの側だろと混乱してくる。

     

     ついでに西郷自身も、時代によって評価は二転三転しているようで、旧武士を率いて挙兵した守旧派とみなされた時期もあれば、資本主義による富の独占を嫌い、原子共産主義に近い考え方を持っていた点でもって革命家と持ち上げられた時期もあるそう。発想としてはポルポトと重なってくるから、すっかり流行らない持ち上げ方である。思想はさておいても、かならずしも太陽のような人ではないという描かれ方が昨今は主流で、「八重の桜」でも謀略家的側面が強調されていた。まあとにかく、とらえどころの難しい人であり、戦争であったということだろう。維新の志士を気取る輩が総じて胡散臭くて信用ならんのは、捉え方が「竜馬がゆく」止まりだからだ。彼らは往々にして「ぶっ壊す」の爽快さしか見てはいない。さて「西郷どん」はどうなるのだろう。今のところは青年期の実直な全力男として描かれているが、その後変わるのか変わらないのか。

     館の外には展望台のような広場があって、戦場が一望できる。館のある側に薩軍がいて、向こうの山から官軍が攻撃した。隣には慰霊碑があって、死者の名前が両軍とも刻んである。ちょうど行きの新幹線の車中で「征西従軍日誌」を読了していた。西南戦争に従軍した一巡査の日記で、まるで朝顔の観察日記がごとく、ろくに感情を交えず淡々と事実の記録をしていた我が母親の育児日記のごとく、冷静な筆致が面白い本だった(漢文書き下し調なので、慣れるまでかなり読みにくかったが)。そんなものを読んだせいで、刻まれた名前一人一人に、なんとなく体温を感じたのだった。


    滑って転んで寝正月

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      伊吹山。車窓から撮ると電線が邪魔っすなあ。

       

       年末に帰省すると駅前の広場に仮設のスケートリンクができていて、たいそうな賑わいである。受験を控えた姪に、「先にスベっておくか」と冗談半分で持ちかけると「行く」との返答。「やったことがないので」という理由である。彼女は兄の娘らしく全体的に保守的なのだが、兄と違ってたまに予想外にチャレンジ精神旺盛なところを見せる。そういうわけで連れて行くことにした。


       義姉が「あんた滑れるの?」と聞いてきて、「わからない」と答えた。実のところ、脳裏には、学生時代に何度か訪れ「見た目の印象より簡単だな」と思った記憶がよみがえっていたのだが、慎重を期して誤魔化した格好である。この判断で正解だった。
      実際リンクに立ってみると、あれは記憶の美化/捏造だったのかというくらい滑り方がよくわからなかった。派手にすっころんだし。そのうち疲労で脚が動かなくなった。右足を踏み出して滑ろうとしても左脚がついてこないので、コンパス状態でくるくるその場で回ってしまう。

       

       一方の姪は、「怖い」となかなか外周の手すりを離そうとせず、そのくせ根気強くカメの速度で周回していた。その根性は大したものだ。

       

       そうして正月を迎えると、胃腸がおかしくなってついでに熱を出し、医学的に寝正月だった。スケートで転んだことは無論、関係なかろう。正月は油断すると寝込む、という自身の学習を、加齢が追い越している印象である。

       

       姪は熱心に勉強していた。第1志望校の判定は現在のところ芳しくないらしい。足を引っ張っているのが国語という。いわゆるすべり止めで受ける私立校の過去問を見せてもらうと、確かに簡単ではなさそうだった。何より、60分でやる分量とは思えないボリュームで、現代文は本文自体がかなり長い。難易度はともかく、長い文章とそれにまつわるたくさんの設問を、短い時間で解くことそれ自体にどれくらいの意味があるのか、ちょっと考えてしまった。

       

       試験なので制限時間の設定は必然だし、限られた時間の中で要領よく正解を導くという作業も重要だろう。でも現代文の場合、大意をつかむことよりは、細かい読解を要求していて、設問もそうなっている。その一方で、要領よくやらないと終わらない時間設定では、文章を読むときに、ざざっと読む、つまり「大意をつかむ」に寄ってしまうのではないかと思うのである。

       

       こんなことを考えるのも、人工知能の先生が提唱しているリーディングスキルテストの話を読んで、間に受けてしまっているからで、確かに「読めない」学生をしばしば相手にしている立場からすると、あの先生の言っていることは当を得ていると感じる。要は、「それ」が指しているのは何か、とか、そんなレベルのことが読み取れるかどうかで、文意をつかめるかどうかが分かれる。中高の国語の試験は大事な点をきちっと押さえているといえよう。

       

       これは「読めている」と思っている人も当てはまる部分があって、何より自分自身、教える立場になってみて、結構色々すっ飛ばして雰囲気で文章をつかんでいたと自覚させられた。文章は読むより書くのが難しいと思っている人も多いと思うが、そもそもちゃんと読めてないから書くのもうまくできないということではないかとも思う。

       

       だから、普段の読書でそんなことしねえだろ、っていうくらい細かい読解を、時間をかけてやる方が、試験としても何かと有益ではないかと思ったと、そういう話である。熱が出ているときに考えることではない。


      新春

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         本年もどうぞよろしく。

         食べ方はこちら。

         


        年の瀬の買い物

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           正月の土産に、たまにはブランデーでも買ってみようと物色し、名前で選んだ。
           ウイスキーがすっかり定着する一方で、ブランデーは棚の面積を奪われ脇に追いやられている。俺自身もあまり味のイメージを持っていない。給与をもらうようになった20代のころ、すでにシングルモルトウイスキーのブームだった。入社半年研修というので、各地方に散らばっていた同期が久々に本社に集合すると、一部の酒飲みは「ボウモア」「ラフロイグ」等々覚えたての銘柄を必死に口にしていた(俺含む)ものだったが、「カミュのXOが」とイキっている同期はいなかった。

           

           一方で当時のおじさん文化の中ではブランデーはまだ根強かったと思う。付き合いでクラブのようなところに連れて行かれると、ヘネシーのVSOPが出てきて、シャンプー容器のような構造の水差しをホステスがプッシュして、強制的にというか自動的にというか、とにかく必ず水割りにして出てくる、というのが毎度のことだった。水割りは味がよくわからない上に酔いは回るから、楽しい思い出はちっともない。

           

           そういう事情で完全に視野から外れていたブランデーだが、急に買ってみようと思ったのは、ブランデー好きおじさんになったという加齢のせいか、それともひねくれているから流行らないものに興味が湧いたか。ま、両方だろう。

           

           知識がないので名前で選んだ。世界史履修者なら必ず教科書で名前は目にしているはずの有名人である。歴史好きとしては見過ごせない。購入理由はそれだけである。
           スペイン国王カルロス1世にして、神聖ローマ皇帝カール5世。神聖ローマ帝国は、現在のドイツ、オーストリア、チェコあたりに領土を構えていたから、スペインから1000キロ以上離れた国のボスを兼任していたことになる。ついでに生まれは確か現在のベルギー辺りで、好んで使っていたのはフランス語。初めて習った高校生のころ、さっぱりわけがわからなかった。今もよくわからない。主権国家という概念がなく、ヨーロッパの王族がことごとく親戚同士だったから、現代人からすると珍妙に見える現象が起こるのであるが、とにかく彼の出自であるハプスブルク家が勢い余っていた時代といえる。

           

           今年は宗教改革500周年に当たり、一部で盛り上がりをみせていたが、その中心人物であるルターと対立した皇帝としても知られる。お前の説はけしからんと議会に呼びつけつつ、ドイツ語がよくわからないのでルターが何を喋っているのかもちんぷんかんぷんで寝ていたらしい。俺様態度にもほどがあるが皇帝なので仕方がない。

           

           命名の由来は、醸造元のホームページを見ると、この世界皇帝的なところにあやかってのことらしいが、その割には値段は大したことがない(XOだと高いのだろうけど)。同じく国王名を冠したレミーマルタン・ルイ13世なんて、冗談みたいな値段がついている。これがスペインと、おフランスの違いだろうかとくだらないことを考えてしまう差だ。

           

           だが日本には清洲城信長鬼ころしがあるから、為政者の人気と酒の値段は反比例するのかもしれない。あと「下町のナポレオン」で有名な酒もあるが、ナポレオンは下町の生まれだ。「カルロス1世」の「ナポレオン」だったら、わけがわからなくなって面白かったが、ホームページを見ると、この普通のクラスとXOしかないもよう。コニャックじゃないからか。ちなみにカルロス1世の息子フェリペ2世は「太陽の沈まない国」「無敵艦隊」で知られ、ルイ13世の息子が、かのルイ14世。2人とも息子の方が派手な印象がある。

           

           肝心の味はまあ、ブランデーの味ですわ。ふわーっとカールい薫りが漂って、この軽さを味わうと、瓶を空にした後に、軽ロスになりそうな気がする。苦しい。酒の話なのに後味が悪い。


          写真がないのでわかりにくい話

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            うっかり寝過ごし甲子園。 講師遅延はどうにか回避。ツタれ気味なるお知る。

             

             冬本番で1年ぶりにコートを引っ張り出してみると、ずいぶんと色落ちしているのに気づいてしまった。元々は黒色だが、端という端が擦り切れて白っぽくなっている。これはまあ昨年ぐらいから自覚していたのだが、今年改めて見てみると、面の部分も、色落ちで赤っぽくなってしまっている箇所が目立ち、どうにも貧相である。さすがに大人としてはいただけない。買い替えの時期がとっくに来ている事実に直面してしまった。


             しかしバーゲンにならないと買う気がしない貧乏性が邪魔をする。というか、どうせ買うなら少々値の張るものを割引で買いたいではないか。特にコートのような大物は尚更。それで応急処置として、色落ちを染め直す方法を検索した。

             

             すると、世の中には素人向けの服飾用染料が売っていると知った。ただし、俺が来ているコートはポリエステル製で、この手の染料では染まらないという。いかんじゃないかとあれこれ検索していたら、「染めQ」を使えばいいとあった。スプレー塗料で「革・プラスチック・金属・木材・布のカラーチェンジに」という謳い文句の商品。これをささっとスプレーすると上手い具合に染まると、ネットには書いてある。

             

             早速ホームセンターで調達して試してみると、綺麗に染まった。黒だからというのもあろうが、どこが塗布した箇所かの境目もわからない。こりゃもう新調せずに済むわいと思ったが、たまたま通りかかった服屋のウインドー越しに見てしまった。このコート、いい感じじゃねーか・・・。

             高そうな店構えに警戒しながら、店内に入り値札を見ると意外に常識的価格。店員に進められるまま羽織ってみると、あらしっくり。とはいえ即決できるほど安いわけでもないので、年明けまで待とうと庶民感情が起動し、俺はもう一つの気になった商品を入手することにした。

             

             すでに触れた、染め直しの染料である。体験記のブログ等々を読むにつけ、どうにも試したくなってしまった。ホームセンターに行ったが、黒だけ品切れ。あれこれ巡ってユザワヤで入手した。年末の繁忙期にアマゾンは気が引けるという余計な遠慮のせいである。しかしホームセンター行ったりユザワヤ行ったり、模範的な演劇人のようではないか。


             ネットで知って買おうとしたのはこちら。英国製という惹句がそそる。さすが産業革命綿工業の国である。給湯機で賄えるぬるま湯で可、という手軽さが売りのようだ。ただし塩を大量に投入しないといけない。この会社には、高温で染めるタイプもあるが、こちらはお湯の手配が面倒な一方、塩は少しでよい。どういう理屈なのだろうか、化学の話、という以上のことはさっぱりわからない。値段は高温用の方がやや安い。
             そしてホームセンターでは見なかったが、ユザワヤには日本製の似たような商品も売っていた。百年企業の商品というのが、こちらもそそる。英国製より色の種類が多いのもよい。こちらも高温用とぬるま湯用の2種類がある。とりあえず英国製にはない色を買うことにした。高温の方が濃く染まると書いてあるので、面倒くさいが高温用を選んだ。

             

             作業としては、でかいバケツでジャバジャバとやらねばならないため、帰省して実家でやることにした。服をたくさん持って帰ったので荷物が多い。
             具体的な作業は、販売元のブログに詳しいのでそちらに譲るとして、俺が今回染めたのはまず、コートと同じく黒の染め直しである。綿の黒服は、洗濯を繰り返すと、そのうち緑っぽくなったり赤っぽくなったり、とにかく貧相な見栄えになる。いわゆる「ようかん色」というやつだ。これが漆黒に戻ればめでたい。

             

             大量のお湯に、大量の塩をまぜて、染料と衣料を投入したあと、ムラを防ぐためにたくさんかき混ぜる。実に大袈裟な作業で、父親はそばから「買った方が安いんでねえけ」と誰もが真っ先に想像することを言ってくる。染料は650円で、塩も業務スーパーのザ塩化ナトリウムみたいな冗談みたいな安さのを使っているとはいえ、労力もあわせると安物のシャツなら買った方が賢明だ。だけど、服屋で「同じようなやつ」を探すと大抵見つからないし、何より楽しい作業じゃないか。

             

             黒シャツ、黒パーカーは結構もとに戻った。着なくなったストライプのシャツを真っ黒にしてやろうと思ったが、柄が消えるほどには染まらないようで、黒ずんだストライプのシャツになった。これはこれでまあアリかという仕上がり。
             日本製の染料は、オレンジのシャツを再びオレンジで染め直した。20代のころ、若気の至りで買った1万円くらいのシャツであるが、こちらも鮮やかなオレンジに復活した(元はたしか若干光沢があったが、当たり前の話、さすがにそれは戻らない)。しかし、このシャツいつ着るんだ。スーツに濃い色のシャツを合わせても、残念ながら松田優作にはならず、漫才師の衣装みたいにしかならん。


             やってわかったのは、大きな衣類ほど非常に面倒くさいということで、Tシャツやシャツは気軽だけど、ジャケットやコートを染めるのはあまりやる気がしない。やる前は、「捨てたあのジャケットも染めればまだ全然着れたなあ」と後悔していたが、捨てていなくても染めていない気がする。一方で、Tシャツやシャツは非常に楽しい。今回は、色落ちを同系色に戻した作業ばかりだったが、次は黄ばんだ白シャツなんかを別の色にしてみたいところ(もちろんヨレヨレになってるのは駄目だけど)。Tシャツを1枚だけ同系色に染め直したが、プリント部分は全く影響がなかった。



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