四条派〜ミュッシャ〜ポー〜ラファエル前派
桐谷的美術館巡りが佳境。本日は京都国立近代美術館で、「円山応挙から近代京都画壇へ」。応挙の名を冠した集金イベント(虫干し)かと思ったが、なかなか楽しめた。呉春は素晴らしいな。中国風の「それは上手いんか?」画風と応挙の写実を兼ね備えた男。彼にあやかった大阪・池田の地酒「呉春」もいい酒だ。
応挙というと孔雀のイメージだったが、この人は水を描くのが上手いのだと知った。滝の絵の滝を白抜きで描く手法なんか、今のマンガ家もよくやってるんじゃないか。そんな話を友人の学芸員にしたら、「俺は保津川図屏風について語って採用された」と鼻息荒く当時の思い出話を聞かされた。保津川図屏風もそういやあったな。屏風は六曲(六つ折り)が相場のところ、八曲ある20世紀FOXサイズのパノラマビジョンな屏風絵である。なるほど芸術作品は現代人の生活にも影響を与えているんだな。
地下鉄で横移動して京都文化博物館。ここでギターをそれほど持ち歩かないヤクザの映画を見たのはすでに書いた通り。映画の前に腹ごしらえをしようとして、時間がタイトな中看板を物色し、結局毎度おなじみ、博物館の向かいにあるラーメン屋でカレーラーメンを食す。明徳・馬淵監督もカレーラーメンが好きらしく、中村計によるとあんま旨くないらしいのだが、この店のはまあまあ旨い。
こちらで開催中なのが「みんなのミュッシャ」。タイトルが気が利いている。つまりこの人の手法を後の時代のデザイナーやマンガ家の数多くがパクっていることを踏まえている。
ミュッシャを見たければ堺に行けばよいのであるが、大塚英志が「ミュシャから少女まんがへ」という本を出していて、Twitterでもその辺の話をよく投稿していたので、企画の趣旨に興味が湧いたというのがある。あとはまあ桐谷的理由。しかし堺になんでミュッシャがあるかというと、信長の時代に堺の商人の手を経て日本に上陸したからであり、ミュッシャは1860年の生まれである。
海外文学の挿絵なんかで見かける、やたらと細密な線で陰影をつけたエッチングなんかから始まり、やがて輪郭線を強調して陰影の乏しい平板なタッチになっていく。女性の長い髪や服のヒラヒラなんかが流麗な線で描かれていて、まあ確かにこれは、後代の日本人から見ればまさしくマンガ的な手法に見える。というわけで後半はそのあたりに影響を受けた人々の紹介となっている。へえ、結構なビッグネームたちが「影響された」と公言してんのか。
後日、阪急うめだ店でやっていた「萩尾望都 ポーの一族展」。よく考えたら新装開店した阪急百貨店にまともに足を踏み入れるのは初めてだった。仕事の前に立ち寄ったので速足で。それというのも読んだことがないから。どういうわけか実家に「トーマの心臓」があったのと、大学生になってようやく「11人いる!」を読んだ程度。それでも原画は感動するね。うめーなーと当たり前の感想しか出ないのだが。
また後日、「ラファエル前派の軌跡展」に。今回は友人2人とともに、おっさん3人で雁首揃えて鑑賞。
友人の1人Dはラファエル前派で卒論を書いている。なので彼の解説で鑑賞会をしようとしたのだが、「それは専門家の仕事だろう」と学芸員Kを呼びつけ、円山応挙で採用された男に無理矢理西洋絵画を解説させる高度な嫌がらせのような会になった。手の込んだレジャーだ。
ラファエル・前派ではなくて、ラファエル前・派である。なので後派はいない。ラファエルは、有名なラファエロの英語読みだ。イギリスの画家たちの運動なのでそうなるわけだが、中心人物が「ダンテ・ガブリエル・ロセッティ」と、完全にイタリア系の名前なのでややこしい。当人はイギリス生まれなので、こちらも英語風に「ゲイブリエル」と表記するのが常。辞書サイトに発音させると「ダンテ・ゲイブリォ・ロゼティ」で、イタリア風の「ロセッティ」とは全く発音していない。ま、「グラン(仏語)フロント(英語)大阪」みたいなものだ。
美しいものを美しく描くというような方向性なので、全体的にはわかりやすく綺麗な絵が多い。時期的には19世紀中ごろなので作品の中には大英帝国の貿易網を思わせる東洋風の調度品もチラホラみられる。それをKが目ざとく見つけて「あれはおそらく古伊万里だ」という。
「150年前の絵だから今伊万里なんじゃねーの?」とまぜっかえすと、「18世紀くらいのやつだと思うから、当時にしても100年前のアンティークだ」と冷静に説明された。その隣でDが、ラファエル前派内の女性関係のドロドロを嬉々として説明している。お前が書いたのは卒論か昼メロかどっちなんだ。
彼らの支柱だった批評家のラスキンが何だかんだで最も絵が上手いような気がした。
- 2019.12.11 Wednesday
- 展覧会
- 12:06
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- by 森下淳士