【La 美麗島粗誌】(28)台北その3_過剰接待、皇帝の玉璽

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    中正紀念堂駅。ホーム柵は高雄と違って日本風。夜まで遊んで終電間際に駅に着くという行為が海外旅行っぽくない気分。

     

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     何でも高いこのホテルは、朝食も2千円近くする。それでも台湾随一のホテルの朝食はどんなものなのか気になるところ。
     結論からいうと、落胆することとなった。料理の種類はかなり豊富だが、割と無国籍なので日本の朝食バイキングとそう変わり映えしない。一番美味かったのがちらし寿司というのも残念な結果だった。台中のホテルの方がよほど美味くて楽しかった。

     

     さっさと出かけよう。でかいホテルなので入口には常にタクシーが客待ちしている。ドアをくぐってそちらに目をやると、目ざといドアマンが「どちらまで」と聞いてきた。高級ホテルだけあって、ここの職員はみな語学堪能だ。そのうち一人、日本語になると声が甲高くなる男性がいた。若干込み入ったことを尋ねたので、同僚に中国語で確認し出し、その声は普通なのに日本語で俺に説明する段になると途端ソプラノになる。電話口のおばちゃんは声が高くなるのがステレオタイプだが、日本語の言語の特性上、高くなるのかもしれない。どんな?

     

     行先は故宮博物院だ。圓山大飯店からは比較的近い上、あちらも山の上にあってアクセスがそれほどよくないから、タクシーが手っ取り早い。圓山から故宮直行というのが、いかにも日本人観光客の典型のようで、乃南先生に怒られそうでいいじゃないか。

     

     運転手は日本語が少し話せるおじさんで、姓を朱とった。やおらスマホをいじって日本の歌謡曲を流し出した。彼なりのサービスだろうか。ついでに歌詞を口ずさんでいる様子が「おいでよ」と言っているようである。仕方がないので「ダイヤル、回して〜」と付き合うと、実に嬉しそうな顔をして「ネスト、ネスト」と言う。意味がわからない。朱氏はスマホをいじって何か入力すると、画面を見せてくる。
     「日本の最も醜い男の品格」
     ますますわからない。この歌の詞が、男の醜い様子を詠んでいるとでもいうのだろうか。伝わらないとみるや、朱氏は元の文面を打ち直し、また見せてきた。
     「日本の醜い男」
     何がいいたいのかは、カーステレオから次の曲の前奏が流れてきてわかった。ラッパがパパパパパ〜と鳴り、朱氏が「Who?!」と言う。
     「谷村新司」
     「ビンゴ!」
     つまり、次の曲の歌手はブス男だというヒントだった。ヒントになるほどブスというわけでもないと思うが。朱氏は「わぁれ〜はゆく〜」とひとしきり堪能した後、また「ネスト、ネスト」といった。どうやら「Next」と言っていると俺は気づいた。同時に俺は、朱主催イントロクイズ大会に巻き込まれていることに気づいていた。
     ♪ターン、タ、ターン(ピアノ)
     「Who?!」
     「五輪真弓」
     「ビンゴ!」
     というなかなかの時間がしばらく続いた。しまいにMC朱は、中国語で何かまくし立ててマイクを置く動作を繰り返している。俺も昔はカラオケでならしたがもうやめたとでもいっているのか?と思ったら「Who?!」とまた言われた。どうやらジェスチャークイズだったらしい。マイクを置く歌謡曲?
    「私、一番好きな日本人の歌手」。知らんがな。朱氏はまたマイクを置く動作をして「デパーチャー」と言った。ああ、そういうこと。
     「山口百恵」
     「ビンゴ!」
     全問正解した俺は、「あなたプロ!」の朱認定称号をいただいた。さて故宮に着いた。

     

     地下のタクシー乗降場で降り、荷物を預けて一階に上がった。チケットは嘉儀の別館を訪れた際にまとめて購入していたのでスルリと入館。月曜朝なのでまだ人は少なめだ。3階まで上がって、2、1と降りてくるのが正しいルートだと後で知った。俺は下から見たのでさかのぼり中国史のようになってしまった。
     ここの所蔵品は清朝皇帝が紫禁城に所蔵していた宝物に由来がある。中国というのはやはり大した国で、過去の時代からの膨大な品々をきちんと分類して保存していたようだ。皇帝ともなると、贅沢趣味も学術が伴うのか。

     民国時代になり、これらの宝物は一般にも公開されるようになったが、まず日中戦争で北京の外に出され、あちらこちらをさまよった。フランスでもナチスから美術品を守るためルーブル美術館の所蔵品を疎開させているが、国土の広さが違うので、より巨大な事業になる。ルーブルの場合、絵画が多いので疎開先でのカビ対策が大変だったそうだが、故宮の場合、割れ物が多いから考えるとちょっと怖い。まあ梱包さえしっかりしていれば陶磁器の方が保存は楽なのかもしれないが。

     

     戦後は北京に戻るも、国共内戦で国民党が台湾に撤退する際、一部を持ち去った。一部といっても所蔵点数が約60万なので全体の半分くらい?正確な数字がわからないが、紫禁城の宝物も両岸に分かれて分断保存されていることになる(近年は交流が進んでいるようだ)。

     しかし内戦で連敗している中で、輸送の面倒な品々をよくもまあ海を越えて運んだものだ。どうやって?というのが凄く気になるのだが今のところよく知らない。物理的な輸送方法もさることながら、持ち出す際にいい物を優先的に、と考えるのが人情だけどそれがわかる人間がいないとダメなわけで、敵が迫って殺されそうだというときだけに、異常な執念すら感じる。

     

     感覚的には三種の神器とか皇帝の玉璽みたいなもんだろう。これを持っている者が正統であるという証としての機能だが、三種の神器なら3つで済むし、玉璽ならアイロンサイズのハンコ1つなところ、何千箱も輸送するのは「他にやることあるだろう」と反発する人間も少なからずいそう。展示されているのはその中のごく一部だろうが、それでも結構な数で、眺めていると余計に輸送の疑問が膨らんできて仕方がない。まあ結果的には文革の破壊を逃れたという点、国民党は人類の宝を守ったという評価になる。

     訪問の一月後にブラジルの国立博物館が全焼することになるが、あれは人類の宝の焼失ということになる。博物館行政が軽んじられている日本でも対岸の火事ではないとのもっぱらの評価だ。財政難どころか戦争で死にかかっているときに美術品のことを考えていた国民党には余計狂気じみたものを感じるが、ただの維新風財政カイカクで軽んじているだけだから、ちょっとは見習うべきよね。当然こちらは国家の正統としての維新ならぬ威信がかかっているから、もの凄いちゃんとした博物館だ。

     

     ぐるっと巡って外に出ると、紫禁城風の概観が見える。喫煙所もある。もとはこの山に穴を掘って戦火を避けるための保存庫にしていたとか。日本だと水辺に作って豪雨で水没した博物館もあったっけかと思い出したり。


    災害と災難(とホームラン)

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       近所の店舗の屋根がバリバリとはがれて落下したのでマジかと驚愕したが、府内どこでも見られた程度の被害で、場所によってはもっと深刻だと後で知った。後日、出勤した先で職員から「大丈夫でしたか?」と気遣われ、近所の店の屋根が吹っ飛んだくらいですと答えたら「ああ、どこでもあるやつ」と言われた。停電にならなかったのはかなりラッキーだったことも知った。

       風力というピンとこない要素の恐ろしさが可視化された格好だが、電柱が軒並み踏切の遮断機みたいになっている様子とか、エグ過ぎてやはりピンとこない。電車を止めたのは英断だったが、その英断が出来る理由の一つは予報の精度が高いからで、「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」の言う通り、気象庁は発達したものだ。同時に石原裕次郎が出てたレーダーをつける映画を思い出した。このレーダーが出来れば台風の死者が減らせるんだという熱意でプロジェクトX的に任務遂行する人々の物語だが、確かに台風当日も直前までただの呑気な曇り時々腫れだったから、生活の知恵だけで対応するのは困難だ。ひと月前に関空を利用したばかりなので、外国人観光客は日本人以上にさぞ不安だろうと同情する。台湾では俺も逆の立場をショボ〜いレベルで軽く経験した。連載の終盤辺りで登場する。


       翌日は新幹線が動いていたので、予定通り出張講義だった。所在地が関西ではないので混乱と無縁だからこうなる。こちらは在来線が混乱続きで新大阪までたどり着くのがほうほうのていだった。平常時の3倍ほどかかったので、会社が予約した新幹線の時間に間に合わなかったのだが、駅に着いたら当該のぞみも遅延していて形式的には間に合った格好になった。先方に電話して、かくのごとき状況につき遅刻になる旨伝え(関西の企業ではないのでこちらの状況はよく知らない)、「到着までどうにかこっちでつないでおきますのでお気をつけて」などと気遣われたが、開始時刻ぴったりに教室に到着した。「つなぎますと言ったものの喋ることが思いつかず助かりました」と、あちらもあちらで軽く追い詰められていた。

       

       こうしてオッサンが悶絶しているのをヨソに、呑気に遅刻してくる学生(関西ではないので町は平常通り)を見ると、いつもは何も思わないのが、この日は苦々しかった。まあ遅刻だけど熱心だったり皆勤賞だけど寝ていたり、学生は色々なので舌打ちのしどころは難しい。一方、遅刻どころか何もしない大阪府市の対応はほぼ既定路線となってしまっている。突発事案で予定が変わることに堪えられないんだろうかね。突発事案で休みが消える仕事を少しだけしたことがあるので、外部要因が自分の意志を変えてくることのストレスは少しはわかる。過剰な忌避反応を見せるのもたまにいるが、そういう人は決まった予定事は大好きだったりする。あれと同じなんかね。とにかく彼らの何もしてなさは被害対応だけでなく、後々たたるという点でもホントあかんことやと思うで。

       

       最近は、授業中にスマホに没入している学生を注意することにした。大学生だし、私語のような他の学生の邪魔になる行為でないなら当人の勝手やろと無視していたが(あとスマホの場合、レアケースながらわからないことを調べているケースもある)、こういうのはオッサンの責務として釘指してやらなあかんのちゃうか、まだ間に合ううちに、などと考えるようになった。加齢だけでなく社会状況も関係してると思う。面倒だしアホくさいし、昔から怒るの下手なんで脳内で台本書いて脳内で演技の練習しないと出来んしで嫌なんだけど、これも後々たたるんちゃうかという懸念が上回っているので。しかし大阪府市はトップがこれで採用試験に「災害対策に何が必要か」というよくあるお題の論文を出題するのだろうか。

       

       それで今朝は電車は大丈夫かしらと朝テレビをつけたら地震だった。こりゃ酷い・・・。ついこの前見た「なんしょうと」北海道篇で出てきた白ワイン屋は大丈夫かね、と若干名いる知人よりそちらを先に思い出してしまった。農業の中心地だからこちらのような遠隔地にも影響大きいだろうなあ。この地震でこちらの台風被害の報道は一気に少なくなり忘れられた感が漂ってくるが、全国各地の「忘れられた災害」の復旧はいずれも目下継続中である。
       北海道も外国人に人気の観光地だから、関空と似た状況。以前、外国人観光客が増えている中で彼ら向けの災害対策は何が要るかというような論文の題もあった。この題もブラックジョークにならなければよいが。

       

       そういう中で大谷が再度の故障。道民を心配させつつホームランは打つというよく出来た息子っぷりをまたもいかんなく発揮している。マンガでも書かないと言われた派手なデビューを飾った今季だが、左投手をからきし打てないというやはりマンガでも書かないわかりやすすぎる弱点を露呈していたところ、左投手から打った。多分、鏡を見てスイングするとか、マンガでも書かない秘密の練習をした成果だろう。

       ア・リーグ西地区はアストロズかアスレチックスで決まりでエンジェルスの芽は今季とっくに消滅しているので(勝率5割で終えるのが目標)、大谷を登板させることはないと思っていたが、監督がソーシアだったのを忘れていた。イイ人なので選手の意志を尊重してしまう。最もストレスを感じてるのは間違いなく当人だろうが、例によって爽やかに冷静に記者会見をしている様子に、再びボルグとマッケンローの生きづらさを思い出してしまった。同種目の大坂なおみは、全体的に強くなった感じですね。

      エンジェルス県立野球場


      【La 美麗島粗誌】(26)台北その2_REVOLVER

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         急きょの総統府を除き、台北に到着してまず向かったのがライブハウスというのも我ながら酔狂だ。有名人が出るわけでも知り合いが出るわけでもない。単に台湾のライブハウスに興味があったからで、さりとて台湾のインディーズシーンに関心があるわけでもない。ないことはないけど。
         以前に、バンドマンは台湾で演るといいよ、というようなことを誰かが書いていたのを読んで、何となく興味を覚えたからだった。どっちかいうたら、俺って見る人というより出る人じゃないですかー。我らが直列6気筒エノモトも、ぼちぼち海外デビューの時期である。いわばハコの視察だ。メンバーとは2年くらい会ってない=練習もしていないから、心底「口だけ」だ。

         

         検索して真っ先に出てきたのがここで、予定を見るとこの日はロックバンドっぽい連中が出演するようだったから丁度いいやと足を運んだのだった。検索で出てきた日本人のブログ記事によると、1階バーの奥の階段を勝手に上がっていけばいいらしい。あ、あれだ。バーカウンターの店員に目配せして二階へ。ステッカーだらけのいかにもな防音扉があって、開けたら思い切りリハの最中だった。は?
         あと20分ほどでスタートのはずなのに、エラいゆっくりしている。俺は一旦店の外に出て、備え付けの灰皿の傍らで煙草をふかして時間をやり過ごし、20時に近付いた辺りでもう一度様子を見に行った。

         

         先ほどはいなかったロン毛に刺青だらけピアスだらけのいかにもな風体の女性が入口すぐのカウンターに座っていて、「もうちょっと」と無表情に英語で制してきた。おやおや今夜の出演者はロックスター気取りかよ。ドアを閉じると、同じく様子をうかがいに来た白人女性と目が合った。「まだ」と言うと呆れたような半笑いが返ってきた。そのまま階段上で待機してみたが、8時を過ぎても動きがないので、また俺は外に出た。

         

         こうなってくるともう帰ろうかという気分が顔を覗かせる。とりあえず俺は、道路の向こうに見える公園に向かった。しばらく周辺をうろうろして、時間を潰そう。
         公園には、圓山大飯店同様、気色悪いくらいに巨大な建物が二つ、広場を向かい合う形で立っていた。國家戱劇院と、國家音樂廳。そして広場の向こうの暗がりに、これまたでかいというか土台の高い堂がぼんやり見えている。あれが中正紀念堂だろう。

         それらの写真を撮っていると機嫌も直ってきて、時間もたったので店の前に戻った。階段には行列ができていた。ただし動く気配がなく、しびれを切らした風の人もちらほら。設備故障かしらというくらいの遅れっぷりである。だけど、とうとう行列が動き出した。ようやくの開場だ。俺も列に並んだ。
         中は、自分が出たハコと同等もしくは少し狭いくらい。地元の若人を中心に、白人のおっさんが何人かと、日本人男性2人組が、所在なく突っ立っていて、この状態でまた待たされた。客席後方に3階への階段があって、そこが楽屋らしい。若人男子3人がダラダラ降りてきて、「ぼちぼちやるか」とばかりに互いに目配せして頷き合っているのを見て軽く殺意を覚えた。なにせ始まったのは予定より45分ほど遅かったからだ。ローリングストーンズでも30分押しだぜ?


         大学院生のような冴えない見てくれの3人組は、どうせ巧いんだろうと思っていたが、予想通りだった。ベースがロッテの里崎に似ていて、ダサい帽子をかぶっているから余計にぱっとしないのだけど、「ベースを弾くやつはベースが巧い」の田中悟法則がここ台湾でもしっかり当てはまっている。ドラムもギターを巧くて、ずーっと抑揚の乏しい曲を演奏しているので、見てくれもあり、歌なしのインストを演るバンドかと思ったら、やにわにギターの理学部数学科が歌い出した。これが演奏スキルと裏腹に下手なんだ。おいマジか。

         下手というより、消え入りそうな声でむにゃむにゃと寝言をささやいているような具合で、その寝言にバンバンにエコーがかかっている。リバーブじゃなくてカラオケスナックのエコーみたいな感じ。いや、なくていいやろ、そのささやきボーカル。と思ったら、バンド名がウイスパラー(whisper=ささやく)だった。ささやきこそがアイデンティティ。ささやき女将か。頭が真っ白で・・・


         まあ演奏技術がかなり高いからよしとするとして、合間の喋りが長いのはいただけない。1曲終わるたびにささやき理学部と里崎がぼそぼそ会話して、前列の若者は笑っているが、内輪臭がキツいからつらい。で、まだ喋るんかーいというくらい続く。持ち曲が少ないから会話で場を持たせているのかと思ったら、とっくり10曲近くやりやがった。


         ステージチェンジのため、客が一斉にドリンクチケットを交換に1階のバーに降りた。俺もビールを貰い適当なテーブルを探すと、先ほどの日本人二人組がいる。30くらいの男性2人。「何でこんな始まるの遅いんすか?」と尋ねると、あ〜はいはいという調子で二人とも苦笑した。
         「理由知らないけど、こっちは大体こんな感じっすよ。あんま客のこと考えてないっていうか、ノンビリしてます」
         そういう時間間隔の文化ということか。ならば文句をいうても詮無いことだから甘受するしかあるまい。
         「出張か何かですか?」と逆に質問された。
         「いえ、観光です。純粋に、ただの観光」
         「観光でこんなとこ、来ます?」
         変わってんなあ〜と目を丸くされ、1人が上の様子を見に行った。片割れと2人きりになり、やや沈黙。すると「誰か知り合いとか、ファンとか?」と蒸し返された。
         「いやあ、まあ、たまたまネットで見て・・・」
         「台湾何回も来てるとか」
         「いや、初めてです。台南とか、ベタなところばっか見物してました」
         「それでライブハウス・・・??」
         確かに我ながら言っていることがチグハグで怪し過ぎる。「自分でも趣味でバンドやってるんで」と事情説明したら、ようやく「ああそれで」と納得した。どんな感じの曲を、と言うので「ベタなJロック」と答えたが、ピンとこない顔をされた。バンドブームを知らない世代には説明にならない表現ということか。正確にはJロックがやりたいわけではなく、作ると自動的にそうなっている。
         「まだ作業中」
         上の様子を見てきた人が戻ってきて、「次のやつ、何か学祭のノリ」と苦笑を付け加える。そうなると、ますますこのまま見続けるのか悩ましくなる。
         「トリで出るのが僕好きで、それを今日は見に来てるんすよ」
         そう薦められ、もう少し居残ることにした。
         2組目は、対バンだと安心するタイプだった。パーカッションにシンセ風の鍵盤にトランペットに、と自分たちとカブっている楽器が全然いないから、実力差に圧迫されることがない。1組目のようにダラダラ長々と喋り続けることはなかったが、「学祭のノリ」というのは的を射ていた。

         

         これもまた当地の文化なのかもしれない。そう思ったのは、台湾映画を何本か見た感触とどこか似たものを感じたからだった。「悲情城市」「飲食男女」といった古めの作品はともかく、新しめの作品には本筋がブレる要らなさそうな挿話や演出が混じるものが多い。あの雑味が目立つ感触と目の前のステージの雰囲気はどこかに通底するものを感じる。この洗練されていない雑多なノリが台湾風味なのだろうか。

         

         だが先ほどの彼が薦めてきた3組目は、まったくもって洗練されていた。ギター&ボーカルの女性とドラムの女性。普段は弾き語りでやっていることが多いらしいが、YouTubeだとバンド形式なのもある。聞けば日本でもライブをしているそうだが、巧いとか売れてるとか、そういう尺度ではなく、そうそうステージってこんなんだったよなあと思い出すような感触を覚えた。

         しつこいが演奏レベルが高いからではない。緊張感がある、というか「ちゃんとしてる」というのが正確な気がする。音楽に限らず、演劇なんかでも、ハコの大小関係なく、金払って何か見るって、こんな感じだよなと。時間もかなり遅くなり、疲れてもいたので、この3組目の女性については様子見気分で見始めたが、結局ラストまでとっくり楽しんでいた。
         彼のお陰でいい夜になった。宿はどこに?と聞かれ、圓山大飯店と答えると、もう一人が「あれホテルだったんだ」と言った。


         参考に動画を添付。映像だと生成り風味だが、俺が見たのは花柄ひらひらの服を着て、髪もパーマだった。キャラを変えたのだろうか。


        【La 美麗島粗誌】(25)台北その1_圓山大飯店

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           台鐵嘉儀から高鐵嘉儀へは、バスがある。跨線橋を渡って駅裏のバスターミナルから発着している。だが昼過ぎのこの時間帯にはまったく便がなかった。仕方がないので隣のタクシー乗り場で高鐵嘉儀までの値段を聞くと「350元くらい」という。少々値が張るが許容範囲。刈り上げ七三に眼鏡の運転手の車に乗り込んだ。誰かに似ていると思ってずっと考えていたら、たまにテレビで見るスポーツ科学の先生で、つまり思い出したところで何なんだという人だった。名前も思い出せないし。

           

           駅までは360元だった。途中、祭りの行列のようなものとぶつかり、渋滞回避で裏通りを通ったせいだろうか。支払うと10元返してきた。「予告通りの価格で」ということか。筋の通し過ぎで恐縮する。列車は混雑していたが、座ることができ、寝ている間に台北に着いた。前回「物語」がどうのこうのと書いたが、台湾のフィクションといえば、「龍」ならぬ「流」がまず思い浮かぶ。実は電車内で読もうと文庫を持ってきていたのだが、なぜかずっと読書をする気分が全く起きず、一文字も読んでいない。


           まずはチェックインだ。台北駅で、地下鉄ことMRTの淡水線に乗った。さすがに台北は高雄と違って車内が混んでいる。淡水線は赤の路線で御堂筋線みたいなものだから余計だ。目的の圓山駅に着くと、駅は地上の高架上だった。駅構内からは気づかなかったが、ホーム屋根は結構凝ったデザインをしている。

           

           ホテルには、ここから無料送迎バスに乗る。アクセスが悪い場所をわざわざ選んだ理由は、せっかく台北に来たのだから、話のタネにと有名ホテルを選んだからで、バスに乗ってまもなく、その大伽藍が見えた。苦笑するような異彩だ。


           高いホテルに泊まること自体を楽しむ人が世の中にいるが、俺にはそういう趣味がない。だけど満洲旅行の際、旧ヤマトホテルに宿泊し、こういう歴史のあるところに泊まるのはなかなかいいものだと一つ発見したような気分になった。このため台湾でも同様のホテルを探したのだが見当たらない(嘉儀の北門駅前にあったのは一応歴史建築の宿泊所だが)。でもそういえば、台北にはわけわからんくらいデカいホテルがあったんじゃなかったっけ、と古い記憶を呼び起こし、こうしてまんまと予約したのだった。
           中に入ると、入口ロビーがまたデカくて豪華で圧倒される。どこにフロントがあるのかもすぐにわからないほどだった。脳内に「レッドクリフ」のテーマ曲が流れ出して、滞在中何度か「てってって、てってれれて」とつい口ずさんでしまった。

          でかいので相当距離を取らないとカメラに収まらない

          翌朝の人が少ないときに撮影

          部屋全体は写真に写っている範囲の倍の広さがある。

           チェックインして部屋に入るとこりゃまたすごい。窓なしの部屋は安いのだが、せっかくなので窓ありにした。結果、持て余すくらい広い。ベッド2つに加え、寝れそうな長椅子も1つあり、こちらの身は1つだけ。慣れんことをやるから、この程度で浮足立ってくる。ベランダに出ると、赤い欄干が連続していて、外観の通りの構造をしている。少し間違えるだけですぐに悪趣味なホテルになりそうなものだが、そうはなっていないのは、ちゃんと作っているということなのだろうか。よくわからん。
           冷蔵庫には各種飲み物があり、引き出しには各種グラスとウイスキー。値段票を見るとどれも馬鹿馬鹿しい値段で、水も有料だった。高雄も台中も、水は無料で置いてあったから、がめつい。高雄のホテルの5泊分くらい取るくせに(といっても日本のゴージャスなホテルに比べれば全然安い)。


           ここはかつては、台湾神社があった。台湾第一位の社格ということで、台湾のお伊勢さんともいわれたそうだが、敗戦でビルは残っても神社は壊される。跡地に出来たのが台湾大飯店、後に改称して現在に至る。余談だが、ホテルの近くには浄水場を祀った圓山水神社というのがあり、本殿以外は残っているようなのだが、台湾神社とは関係がない。
           館内に掲示された写真を見ると、できた当初はもっと小さかった、というか常識的な大きさだった。迎賓館としての役割を担っていて、ここを訪れた各国首脳やその他要人らの写真が飾られている。有事の際の脱出用地下道もあるというから、見かけだけでなく役割としても城みたいなものだ。20年ほど前には火災で上階が消失しているから、まるで阿房宮だよなあ、と思って検索したら、現在は「阿房宮は焼かれていない説」があるそうで。


           少し休んで俺は再びバスに乗って圓山駅に戻った。
           時間はすっかり夕飯時だ。とりあえず何か腹に入れたいが、時間もあまりないので工夫なく牛肉麺をすすることにした。駅東側の大通り沿いの店に入り、ビールとともに注文した。高雄のこういう店は扉のないオープンな店構えばかりだったが、さすがは台北、日本の食堂のようにガラス戸があってクーラーが効いている、ってどこに感心しているんだ。


           牛肉麺は大陸でも何度か食べたが、味があっさりし過ぎという印象は共通だった。テーブルの上には調味料がいくつかある。高雄で学習したように、適当に自分で味を足そうかと考え小瓶を手に取ると、「鹽」と書いてあった。なぜかそっと戻した。大陸では必ずパクチーがかかっていたが、こちらはなし。するするっと食べてビールをぐいっと空けて、MRTに乗った。

           降りたのは中正紀念堂駅。総統府もほどほど近い官庁街のような場所に、日曜の夜に何の用事があるのか。地上に出ると、まさしく虎ノ門か谷町四丁目みたいな景色のビル街に出た。少し歩くと、周囲からは完全に浮いた場違いな店が見えた。今からここでライブを見るつもりだ。店のHPによると、19:30開場の20時スタート。現在時刻は19:40ごろ。ちょうどいい、と思ったのがまったくちょうどよくなかったことがすぐわかった。


          【やっつけ映画評】判決、ふたつの希望

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             予告編を見て面白そうだと思って早速見に行った、予告から抱いた印象とはかなり異なる内容で、予想以上に複雑な作品だった。「ただ、謝罪だけが欲しかった」というキャッチコピーは、片面しかとらえていない。

             

             重いテーマを扱っているが、「実話に基づく」ではない。今時重厚な作品の多くは「実話に基づく」だらけにつき、作り話はかくあるべしと見せつけられた点は心地いい。
             といっても物語は、現実世界のシンドイ問題をしっかりトレースしている。民族や宗教の争いを、個人レベルに落とし込んだらどうなるかという構成は「ノー・マンズ・ランド」と似ているが、深い絶望で終わるあの作品とは異なり、希望が描かれているので助かる。なぜあちらは絶望で、こちらは希望なのか、という点が本作の大きなポイントでもある。

             

             法廷モノだ。中盤以降の法廷シーンは、「弁護人」「否定と肯定」とダブって見える緊迫した展開を見せる。民族や差別の問題が絡むから、特に後者と重なるが、ただし法廷モノと聞いて予想するのとはかなり異なる。本作における舞台装置としての裁判所の使い方は、かなりおもしろいと思った。大袈裟にいうと「なるほど、そうきたか」だが、別にトリックストーリーというわけではない。


             発端は理解に苦しむ喧嘩から始まる。舞台はレバノン。正直、よく知らない国だ。地図で場所は示せるから日本人の平均よりかはよく知っている方になるかもしれない。知った人間に言わせると、料理が相当美味しいらしい。ベイルートで暮らす四十男のトニーが、自宅ベランダの草木に水をやっていたところ、この住宅街の補修工事にやってきたヤーセルとトラブルになる。

             このいざこざは、互いの態度がちっともついていけなくて面食らう。今時の若手漫才師がよく使うツッコミでいえば「情緒どないなっとんねん」と言いたくなるトニーの態度(薬物中毒者かと思った)に、思春期のガキじゃあるまいしというヤーセルの強情さが加わり、些細なもめごとが大袈裟になる。とにかくヤーセルがトニーに「クソ野郎」と罵声を浴びせたことで、トニーは謝れ!と迫ることになる。

             

             予告編の印象や「謝罪が欲しかった」というコピーから、マジョリティのヤーセルの罵倒に、マイノリティのトニーが怒った、という話かと思ったら逆だった。トニーはレバノンではマジョリティ側になるキリスト教徒で、ゴリゴリの極右政党の党員でもある。一方のヤーセルはパレスチナ難民で、トニーが支持する極右から排斥を訴えられている側になる。

             

             さて。なかなか謝らないヤーセルにトニーはキレて差別的な言葉を浴びせる。これにカッとなったヤーセルはトニーを殴打して怪我を負わせてしまい、結果告訴されて裁判になる。原題「L'INSULTE」は侮辱という意味で、この互いの罵倒を指しているのだろう。
             民事と刑事が混じった審理形式のようで、日本のような検察官対弁護士ではなく、当人同士の訴訟で有罪無罪を争うようだ。一審では互いに弁護士をつけず、トニーが敗訴しヤーセルは無罪放免。舞台は控訴審へ移り、ここから話が大きくなっていく。

             

             注目したい点は2つだ。1つは、トニーやその支持者(既に述べたようにレバノン社会では多数派側)が「やつらは優遇されている。疎外されているのはこっちだ」という在特会のようなロジックで自己正当化している点だ。以前からそのような主張の極右政党を支持しているが、自身が傷害の被害者となり、加害者は一審で無罪になっているから、「自分たちこそが虐げられている」というロジックに確信を深めることとなっている。この点は後で触れる。
             もう一つは、法廷モノでありながら、裁判は主役ではない点だ。ヤーセルは一審段階から殴打自体は認めているし有罪でいいと思っている。トニーが求めているのは訴追でも賠償でもなく謝罪だが、裁判の仕組み上謝罪をするしないではなく有罪無罪が争われるのでトニーの要求には直接答えられるものではない。ある意味、落とし前をつけさせるというメンツのために仕方なく裁判という手段を選んでいるように見える。ヤーセルが謝れば、トニーは法廷には訴え出ていない。

             

             だが民族対立の構図を象徴しているような裁判だから、控訴審はニュースにもなり、法廷の外では双方の立場に寄った外野同士が沸騰して衝突が勃発する。レバノンは南隣にイスラエルがいるためパレスチナ難民も多いのだが、単に国民×難民という対立図式があるだけなく、歴史的にレバノンはイスラエルと戦争しており、パレスチナ難民を否定することは「憎きイスラエルを利する」と考える層もいる。なので余計にややこしく盛り上がるわけだ。しまいにトニーが党員の極右政党は「うちの主張ではない」とニュース番組で釈明するし、大統領まで出てきて国を潰す気かと2人に説教する。大統領が会社の部長か校長先生くらいのノリで登場するから不条理コメディのようにすら見えるが、コメディではないので不条理な深刻さだけがあることになる。

             

             要するに、個人と個人の争いだったはずのことが、民族対民族ないしは党派対党派のような対立に主語が拡大してしまったということだが、考えてみれば差別なり差別発言なりは相手を個人ではなく「ヨソモノ」や「別の党派」と大づかみで見ることによって引き起こされるものだから、拡大したというよりは、この事件の背景が炙り出されたといった方が正しい。

             

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