【やっつけ映画評】再会の食卓

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     台湾映画ではなく中国の制作だが、テーマは中台の分断である。
     国民党の兵隊として上海から台湾に退却させられた夫・劉燕生と、上海に遺された妻・玉娥。生き別れた2人はそれぞれの地で新たに家庭を築くが、劉が妻に先立たれたのと台湾海峡両岸の雪解けが進んで訪中が可能になったことが重なり、劉が上海の玉娥宅を訪れるところから物語が始まる。実のところ劉は玉娥を台湾に連れて行こうと考えているのだが、玉娥には長年連れ添った夫・陸善民がいるのだった。

     

     分断という歴史の大きな出来事を、個人レベルに焦点を当てる着想は個人的には好物だ。爺さん婆さんの三角関係という構図も面白いし、分断が横たわる分、迫るものがある。なにせ生き別れ当時玉娥のお腹にいた子供が、すっかり禿げあがっているのだ。こんな残酷なことあるかえ。自分も薄毛だからって、禿頭のことを言っているのではない念のため。抑制のきいた演技、特に最も気分が揺れているはずの玉娥の表情が大して変わらないところも、小津映画のような雰囲気を生んでいると同時に迫るものがある。「あの頃〜」のようなライトな台湾ラブストーリーを見た後だから余計に。

     

     ただし、映画は割と拍子抜けする格好で終わる。まず拍子抜けするのは現夫の陸だが、これは拍子抜けというより腰が抜けた、むしろとても面白い展開だと思った。劉のリスタートの思惑に玉娥も惹かれ同意する。しかし陸が何と言うか。いざ切り出そうとすると、実に人のよい陸のいい面がにわかに目についてとても言い出せない(名は体を表す)。そこで劉が意を決して切り出すと、陸は「ええよ」。ええんかい。まるでスリムクラブの漫才だ。あっさり同意する陸の態度は人格がおかしいようにも見えるが、だからこそ分断の時代を経験した年寄りにしかわからない感覚に見えて、これもまた胸を打たれた。

     

     拍子抜けはこの後で、タイトルの割には食事のシーンがあまり印象に残らない上メタファー的な機能も薄かったことと、結局何の変化もないことだ。前者については、同じ「食卓もの」の「恋人たちの食卓」の料理が実に美味そうだったから余計に目についた。だけど後者については、別のことも考えた。

     

     「ええよ」と陸の同意は得たものの、その後いろいろあって、結局劉も玉娥も当初の計画を断念し、劉は一人上海を後にすることになる。結局、中途半端に玉娥の心を揺さぶっただけで何だか可哀想なのであるが、劉や陸にはこれといって変化がなくただの元の木阿弥に見える。また、当初から我関せずの態度を取る玉娥の長男(つまり陸一家の中で唯一劉の血を引く子)は、最後まで劉に心を閉ざしたままで好転もなければ悪化もない。

     

     これを描き方が浅いとくさすのは簡単なのだが、もしかすると中国制作の映画では、この政治的にデリケートなテーマを描くのはこれが限界なのではと思った。そしてさらに深読みすると、上海に残ることに同意したとはいえ未練たっぷりに劉と涙の別れをする玉娥と、諦めを漂わせながら去っていく劉は、大陸と台湾、それぞれのありさまに重なって見えなくもない。
     大陸側は「1つの中国」にこだわり、台湾側は「中国」であることを捨て「台湾」としての独自路線を進もうとする、その政治状況と彼ら元夫婦の姿は割と似ている。だとすると、中国でこんな危なっかしい映画を作った監督の姿勢はにわかに挑戦的に見えてくるのである。

     

    「團圓」2009年中国
    監督:王全安
    出演:盧燕、凌峰、許才根


    【やっつけ映画評】恋人たちの食卓

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       邦題のせいだろう。特に期待せずに見たのだが、とても面白かった。主人公(?)の女優・呉倩蓮が池上季実子に似ていると思いながら見ていたが、そのうち満島ひかりに見えてきた。彼女が80年代風の髪型と化粧をしたらこんな具合になりそう。特に似ているとも思えない2人の女優が呉氏を真ん中に置くとグラデーションでつながる。


       冒頭の料理のシーンから釘付けになる。台湾のかの有名な圓山大飯店で料理長を務めていたという設定の父親が、自宅の台所で宮廷料理的な豪華な中華を調理している姿がテンポよく描かれる。妙に楽しいシーンだ。でかい包丁を細かく扱う器用さに代表されるように、中華は豪快なようで繊細で、そこが映像向けなのかもしれん。宮廷料理っぽいせいか、工程がやけに多く複雑で、そこもまた惹き込まれる。

       

       この引退したシェフ・朱は、妻を亡くした頑固おやじで、年頃の娘三人と同居している。週末は四人でこの豪華料理を囲むのがルールのようで、三人娘のそれぞれの平日の悲喜こもごもが同時並行で進みつつ、定期的に食いきれない豪華な晩餐になる。「三姉妹」がデカい家に同居している点と長女と次女が勝気な点で「海街diary」を思い出した。「小津安二郎のような」という評も目にしたが、あれらの作品と異なり、意外なことにやけに展開が早い。冒頭の調理シーンと同じくスピーディで、そこが本作の大きな魅力だと思う(長女が決意の変貌を遂げるシーンなんか最高)。小津というより、地味にまとめていると見せかけて結構ぶっとんでいる点、川島雄三だと思った。


       家族というのは、特に親が保守的な場合、ルーティンの比重が高い。子供たちが大人になり人格が確立してくると、個人の人生と家族のルールがぶつかりあってくるからそのうち煩わしくなる。とはいえ、こういう家庭の親は家族に対する責任はきちんと果たすから、自身が自身の選択だけで生きて行こうとするのには多少なりとも罪悪感が伴ってくる。特にこの家庭の場合、母親はすでに亡く、父は高齢だから尚更だ。
       

       そういう立ち位置を最も表しているのが、すでに紹介した池上ひかりこと次女の家倩だ。「キャリアウーマン」という言葉がまだ空洞化していないころ、つまり女性の社会進出がまだ新しかったころに男に伍して敏腕ぶりを発揮する優秀な女性で、最初に「家を出ようと思う」と切り出すのも必然に見える。それがどんどん裏切られる展開になっていくわけであるが、男系の色合いが濃い社会では、女性の場合、「結婚する」は「家を出る」と同義であるところがポイントだ。一見時間が止まったような家族だが、結婚によって大きく変動していく。

       

       子供にとっては家族は世界同様、最初からあるものだ。次女の視点に立てば、途中で下に妹が生まれ、母が死去する変化はあったものの、絶対的ともいえる父親がいて、煩わしい姉がいることには子供のころから変わりがない。だから煩わしいと感じると同時に切っても切れない自己存在の確認の場でもあるわけだが、親にとっては自分一人から始まり、伴侶を得て娘が一人ずつ増えていく格好になる。家族はあくまで一つの段階であって、所与の世界ではない。結婚によって家族の構成が大きく変動する中で、父親も一つの決心をするのは自然といえば自然だ。その選択が驚愕のどんでん返しなので家族モノのくせにミステリのような風合いが漂う。「ショックで気を失う」というのは映画やドラマでおなじみの演出ながら、はじめて説得力を感じる卒倒を見た気がした。それくらいのドンデンだった。

       

       こうして父と娘たちそれぞれが自分の道を進み出し、すっかり時間が止まったようだった4人の食卓を終焉を迎える。そういった中で家倩がラスト付近で見せる涙と選択が、家族と食卓(=それまで暮らしてきた家)の関係性をよく表していると思う。面々は誰も死んでいないし、遠くに行ったわけでもないから家族自体は相変わらず存在しているのであるが、今までの食卓がここにあり、これからもあることの意味は、実に煩わしくも憎たらしくもあり、そして同時に美しくもあり愛おしくもある。

       

      「飲食男女」1994年台湾
      監督:アン・リー
      出演:郎雄、楊貴媚、呉倩蓮


      【やっつけ映画評】セデック・バレ

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         レンタル屋にないので見るのが難しい台湾映画の大作だ。結局図書館の世話になった。昨今、映像作品を所蔵している図書館は珍しくなくなってきているが、レンタル屋には置いていないソフトをきちんと所蔵しておくというのは図書館の役割として重要なんだなあと、普段DVDの蔵書は検索すらしたことがなかったので余計にそう感じた。パブリックってのは、僕らの財産すよ。


         「海角七號」の監督が、大ヒットで得た金をつぎ込んで、一転して超ハードな作品を仕上げた格好なのが本作だ。実に理想的なやり方じゃないか。「海角」にしろ本作にしろ、その後制作に携わる「KANO」にしろ、日本統治時代の好きな人のようで、全部「日本」が関わっている。そしていずれも長い。「海角」は130分だけど、内容がユルいドタバタなので長く感じた。「KANO」は3時間。そして本作の場合、2部作構成(実質的に前後編)で、いずれも2時間超だから、合計5時間近くある。自然の景色が凄く綺麗な映像と、戦争が絡むあたり、同じく迷惑なくらい長尺の「アラビアのロレンス」と似ている。そして「ロレンス」も、いってしまえば異郷の人々とわかり合えない物語で、本作もしかり。長い。重い。図書館しか在庫を抱えないのも必然とはいえそう。台湾では大ヒットだったそうだけど。

         

         日本の統治時代を台湾側から描いた作品といえばそうなのだが、漢民族はあまり登場しない。本作の主人公の名はモーナ・ルーダオで、陳さんや張さんではない。いわゆる先住民族で、実際にその血を引く人々が演じているそうだが、全体的に顔つきが濃く、独自の言葉を話し、農耕民族ですらない。監督は漢族系の人で、彼ら先住民についてあまりちゃんとは知らなかったというから、帝国主義時代の被支配地域で作られた映画とはいえ朝鮮半島のようなシンプルな構図ではない。

         

         その先住民たちが植民してきた日本人たちと対立して虐殺事件を起こす。霧社事件と呼ばれる実在の事件が本作のテーマだ。前編(太陽旗)が事件に至るまで。後編(虹の橋)がその後という構成だが、長尺の中で複雑な絡み合いをするような話ではまったくなく、割と単純な物語である。それがここまで長いのはひとえに監督の好奇心を強く押し出しているからだろう。民俗を描いたようなシーンがかなりの割合を占め、セデック族のPVのような感もある。映像的にはかなり魅力的ではあるが、少々しつこさも感じる。今踊ってる場合ちゃうやろと言いたくなる場面とか、何度「虹の橋」と言えば気が済むのかとか、画面に向かってつっこんでしまう部分も無きにしも非ずだった。

         

         裏を返せばそれだけ価値観が違う人々だといえる。価値観というより時間の感覚や死生観など何もかもが違うといっていい。この蜂起〜虐殺も彼らにとっては儀式の側面が強いのではないか。なので切迫した場面で踊り出したり同じ言葉を何度も言ったりするように思う。ここで描かれているのは、帝国主義的支配/被支配や、強者による弱者の弾圧といった構図ではなく、文明の衝突のようなものではないだろうか。

         

         こういう中で興味深い登場人物が、モーナのライバルであるタイモ・ワリスだ。

         


        台湾映画あれこれ

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           台湾映画をいくつか立て続けに見た。これまで「KANO」くらいしか見たことがなかったのは、興味云々というよりは、そもそも視界に入ってきた作品が限られているからで、要するによく知らないせいだ。なので「おすすめ10本!」のようなヤワなサイトから作品名を調べるこことなった。

           そうして次にわかったのは、日本で見れる台湾映画にはかなりの制限があるという事実で、同じアジアでも韓国映画に比べるとレンタル屋に置いている確率がぐっと落ちる。確認したサイトは、洋画に例えれば1位に「タイタニック」が来ているような超初心者向けだと思うのだが、その10本すらままならない。レンタル屋の閉店が目立って進められている昨今、これはいよいよネット配信サービスの登録かと思ったのだが、そこでも見られないのがあれやこれやの様子。一応日本版DVDの販売はあるのだが、レンタルだの配信だのの市場には乗っかっていないというのは、これはノンフィクションの導入になりそうな一つの発見である。
           そうこうしていくつかは見れた、そのうちの感想をいくつか。

          続津

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             政治部記者のお話だ。モチーフとなっている犹件瓩肋々古いが、全体的には只今現在の状況を思い切りトレースしている。政権ベッタリの記者や、その状況に歯ぎしりしている記者たちが繰り広げるコメディタッチの作品だ。


             いわゆるシチュエーションコメディの類といえばいいのか。場面は記者会館の屋上で固定。時間も半日限りである。先につまらない話から。記者というのは職業的性質上、他人の目を気にしてこそこそと行動する。だけどそれだとうまく話が転がらないからだろう、本作では「立ち聞きされてバレる」という格好で話が進む場面がいくつかあった。だが記者の性質上、いかにもご都合主義に見えてしまう点、ちょっとキツかった。場面固定だと特にこうなりやすい。かなり上手い書き手だと思うが、どうしてもストーリー上の都合が優先する傾向はつきまとう演劇スタイルだと改めて思った。

             

             物語は、厳しい追及が予想される首相記者会見をうまくいなして乗り切るための想定問答集が、記者会館のコピー機に忘れられていたところから始まる。つまり、本来政権を批判する側の報道の人間が、こんなご注進のような文書を作って官邸に渡していたとすれば、職業倫理を完全に逸脱した行為となる。少なくとも建前としてはそうだ。ドエライ不祥事である。
             問題は誰が作って置き忘れたのかであるが、その犯人捜しはストーリーの中核ではなく、一番あやしい人がそうだということが割と早い段階で示される。5人の登場人物のうち、2人は政権ベッタリの御用記者で、3人は批判側になる。物語の趣旨は、この3人がどうするのかにある。社内事情等々で、憤りが記事に思うように反映されない葛藤といったあたりが描かれるのであるが、御用記者2人のやり取りが一番面白かった。

             

             出演者の中では、松尾貴史がツイッターなんかで積極的に現政権の批判を展開しているが、この人が御用の1人を演じている一種のねじれがミソだろう。その飯友達記者が、御用ゆえに官邸からあれこれとプレッシャーを受ける。その愚痴をこぼすように現実の首脳たちのモノマネを織り交ぜながら、実際にあった発言なんかを踏まえてコミカルに揶揄する。つまり、物語の中では政権寄りの人間が、アレック・ボールドウィンをやっているわけで、二重にねじれているといえる。実物がネタにし放題の隙だらけの人々なだけに、そのままいじくってもあまり工夫が感じられずに滑るおそれがありそうなところ、この方法は実に見事だと思った。演技力のある人なので、そもそもがおもしろいというのも当然あろうが。
             もう一人はNHKの岩田某をモデルにしているのだろう、テレビの女性記者で、松尾演じる編集委員と内ゲバのような言い争いを演じる。いかにも本当っぽい政治記者としての理屈を血管の切れそうな絶叫とともにまくし立てる様子が、「当人にとっての正義」に大きな説得力を与えていた。なぜそこまで政権にすり寄るのか。ただの功利主義ではなく宗教性すら帯びた狎亀銑瓩貌佑動かされている動機付けがよくわかり、作品に厚みを与えている。

             

             一方で、批判側の3人のうち、安田成美演じるネットメディアの記者はド正論を吐き続ける。最もメッセージ性の強いキャラながら、この登場人物が最もつまらなかった。一つには、言っていることが教科書的な模範解答に徹し続けていること。もう一つはこのキャラクターだけミュージカルの主役のような妖精的で現実離れした役作りだった点である。演技はうまい人だろうから、これは演出側の要請なのか。とにかく妖精が正論を言っても、尊くはあっても響きはせんよね。

             

             特に今時は、劇中でも眞島秀和演じる記者が似たようなことを言っていたが、批判する側が力を持てておらず、それも批判の理屈が苦しいからでも政権側に分があるからでもないところに問題がある。例えば豪雨の酒盛りやカジノ法案先行に何の妥当性もないから、批判は自動的に正論になるのだけど、それほど大きな力にはなりえていない。こういう難しい現状にあって、正論をいうのが妖精的人物である一方、御用記者二人の壮絶なやり合いの方がやたらとパワフルというのが、現実を象徴してしまっているように感じてしまった。いや、正論や理想論や原則論自体はとても大事なんですよ。問題はフィクションにそれをどう乗っけるかであってね。最も安直な方法でやったなあという印象が、ほかがよかっただけに余計に残念だった。

             

            「ザ・空気ver.2 誰も書いてはならぬ」
            作・演出:永井愛
            出演:安田成美、松尾貴史、眞島秀和、馬渕英里何、柳下大



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